赤ちゃんのもつ先天異常のひとつとして、無脳症を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。無脳症とは、生まれつき脳の形成に異常が見られる症状です。
本記事では、無脳症の原因や発症する確率、診断方法、治療法を解説します。無脳症について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
無脳症とは
「無脳症」とは、生まれつき脳の一部または全体が欠損した状態が見られる病気のことです。
脳や脊椎、脊髄に生まれつき異常が生じる「神経管閉鎖不全」の一種であり、神経管閉鎖不全は妊娠4~5週頃に起こると考えられています。神経管閉鎖不全には脊椎の異常による神経障害が起こる「二分脊椎症」も挙げられますが、無脳症は神経管閉鎖不全のなかでも重度な形態です。
無脳症の場合は胎児の頭蓋骨や頭部の皮膚が正常に形成されないことで、脳組織が羊水にさらされたり頭部から流れ出たりします。頭蓋骨や皮膚が正常に形成されないことを「無頭蓋症」といい、無脳症と合わせて一連の病態として考えられることもあります。
脳は人間が生命を維持するために重要な役割を担う臓器です。そのため、無脳症の子どもが生存するのは難しく、ほとんどのケースで妊娠中絶か胎児死亡となります。出産できたとしても、出生後数日〜数週間で亡くなるケースがほとんどです。また、生まれてきた新生児は頭部の形成が不十分であり、カエルのような特徴的な顔になります。
参考:MSDマニュアル家庭版「神経管閉鎖不全と二分脊椎」
参考:日本周産期・新生児医学会雑誌第59巻第1号,鈴木幸之助ほか「広範囲な無頭蓋症を伴う羊膜索症候群の長期生存例」
無脳症が発症する原因
無脳症はなんらかの理由により妊娠4〜5週目頃に神経管の上部で閉鎖障害が発生し、脳が形成不全となることで起こります。神経管の閉鎖障害が起こる原因として考えられているのが、胎児の染色体異常や母体の栄養状態などです。
たとえば、母体に葉酸が不足していると無脳症の要因となると考えられています。葉酸とはビタミンB群のひとつであり、胎児の健全な発育をサポートする栄養素です。葉酸が不足すると妊娠初期に胎児の細胞分裂がうまく行われない可能性が高くなります。
そのため、妊娠前から葉酸を摂取することが推奨されています。
他にも、遺伝や環境要因が関係していると考えられていますが、詳しいことはまだ明らかになっていません。
参考:厚生労働省「神経管閉鎖障害の発生リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関する情報提供要領」
無脳症はいつわかる?検査方法も解説
無脳症は妊娠初期の終わりにあたる、妊娠11週以降の妊婦健診で見つかるケースが多くあります。妊婦健診のエコー検査で胎児の形態異常のスクリーニングができるようになるのが妊娠11週頃からです。
エコー検査で胎児の様子を画像で見る際に、以下のような異常が見られると無脳症が疑われます。
- 胎児の頭部に丸みがない
- 頭部の一部が写らない
- 脳が羊水内を浮遊している
無脳症を伴う無頭蓋症の発生頻度は約1,000人に1人といわれています。ただし、人種によって差があるなど、詳しいことはまだ解明されていません。
参考:公益社団法人日本産婦人科医会「13.妊娠初期の胎児形態異常のスクリーニング」
参考:日本周産期・新生児医学会雑誌第59巻第1号,鈴木幸之助ほか「広範囲な無頭蓋症を伴う羊膜索症候群の長期生存例」
無脳症の治療法
無脳症は先天異常であり、現状では治療法がありません。中絶や死産となるケースが多く、出産しても数日〜数週間で死亡するケースがほとんどです。
海外では脳の80%が欠損した状態で生まれ、5歳まで生きたジャクソン・ビュエル君の例もあります。出生当時、医師からは「数日しか生きられないだろう」といわれていました。しかし、ジャクソン君はおもちゃで遊んだり発語が見られたりしたことから、奇跡の子と称されました。
ジャクソン君の例は稀なケースであり、無脳症と診断されると妊婦や家族は不安や悲しみなどを背負うことになります。そのため、専門家による適切な気持ちのケアが重要です。胎児の生存が難しいことを受け止めるとともに、専門家からの適切な支援を受けましょう。
無脳症の可能性をできるだけ早く調べたい場合、エコー検査以外に「クアトロテスト(母体血清マーカー検査)での検査ができます。クアトロテストは出産前診断のひとつであり、妊娠15週0日〜21週6日まで受けられる検査です。検査の推奨時期は妊娠15週0日〜16週頃までのため、検査を希望する場合はこの期間内に受けましょう。
クアトロテストでは妊婦さんの血液を採取し、妊婦さんの年齢・体重・妊娠週数などの情報と合わせて以下の疾患の可能性を検査できます。
- 無脳症
- 二分脊椎症
- 21トリソミー(ダウン症候群)
- 18トリソミー(エドワード症候群)
クアトロテストは基準となるカットオフ値との比較により判定が行われます。カットオフ値より高い場合はスクリーニング陽性、低い場合はスクリーニング陰性です。スクリーニング陽性の場合は、上記の疾患である確率が高いと考えられます。
なお、クアトロテストは疾患の可能性を調べる検査であり、必ずしも上記に該当するとは限りません。スクリーニング陽性と判定された場合は、エコー検査による画像診断や羊水検査などで無脳症の可能性を調べましょう。
参照:兵庫医科大学病院「母体血清マーカー検査(クアトロテスト)とは」
無脳症では胎児に脳の欠損や変形が見られる
無脳症は胎児の脳に欠損や変形が見られる先天異常であり、現状では治療法はありません。死産となるケースがほとんどで、生まれたとしても数日〜数週間で亡くなります。妊婦健診のエコー検査で判明することが多く、妊婦さんや家族への精神面でのケアが必要です。
無脳症の可能性は、クアトロテストなどの出生前診断によって調べられます。あくまでも可能性の有無を調べる検査ですが、早い段階で調べることで妊婦さんや家族が妊娠の継続や出産に備えやすくなるでしょう。
監修者
自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 桑田 知之
専門・実績
周産期医学、超音波診断学。とくに出生前診断、胎児形態異常。自動胎動カウントによる胎児well-beingの評価。経膣超音波等の自動追従型超音波ボディマーカーの開発。超音波装置の安全に関する研究。
所属学会
日本産科婦人科学会(専門医)、日本超音波医学会(専門医・指導医・代議員)、日本周産期新生児学会(専門医・指導医・評議員)、日本周産期メンタルヘルス学会(評議員)、日本分娩監視研究会(幹事)他
運営者情報
NIPT平石クリニック
高齢出産が増えている傾向にある日本で、流産のリスクを抑えた検査が出来るNIPT(新型出生前診断)の重要性を高く考え、広く検査が知れ渡りみなさまに利用していただける事を目指しております。