帝王切開は、母体や赤ちゃんに問題が生じた場合に選択される分娩方法です。手術で出産する方法であるため一定のリスクが伴います。
そのため、「帝王切開で死亡する確率は?」「どのようなときに帝王切開が必要になる?」など不安や疑問を抱えている人もいるでしょう。
この記事では、帝王切開の種類と具体的なリスクについて詳しく解説します。
帝王切開とは?自然分娩との違い
帝王切開とは、麻酔をかけて子宮を切開し赤ちゃんを取り出す分娩方法です。自然分娩(経膣分娩)との違いは、出産する際に赤ちゃんが産道を通り抜けるか、手術を要するかどうかの違いがあります。
日本では、妊婦の約5人に1人が帝王切開による出産とされています。
帝王切開の種類については以下のとおりです。
- 予定帝王切開
- 緊急帝王切開
それぞれの違いについて、詳しく解説します。
参照:国立成育医療研究センター「帝王切開について」
予定帝王切開
予定帝王切開とは、医師が事前に手術日を決めて行う帝王切開のことです。通常は、妊娠37週までの健診で自然分娩が困難と判断された場合に実施されます。
具体的には、以下のようなケースで予定帝王切開をします。
- 逆子
- 多胎妊娠(2人以上の同時出産)
- 前置胎盤
- 過去に帝王切開や子宮の手術を受けたことがある
- 妊婦の心臓や脳に疾患がある
緊急帝王切開
緊急帝王切開とは、母子のいずれかに問題が生じた際、速やかに赤ちゃんを取り出すために実施される手術です。
緊急帝王切開の理由となる赤ちゃん側の問題は、以下のとおりです。
- 胎児機能不全
- 遅延分娩(分娩中に赤ちゃんが産道で止まってしまう状態)
- 常位胎盤早期剥離
- 回旋異常
- 臍帯巻絡・臍帯脱出
一方、妊婦側では以下のような問題がある場合に緊急帝王切開が行われます。
- 帝王切開予定日前に陣痛が始まった場合
- 前置胎盤からの出血
- 重度の妊娠高血圧症候群
帝王切開のリスク
帝王切開には、手術そのもののリスクと個人の体質や合併症によって生じるリスクがあります。一般的に考えられるリスクについては、以下のとおりです。
- 出血
- 血栓症
- 癒着が生じやすい
- 傷跡が残る
- 二人目出産時も帝王切開
- 新生児の呼吸障害
出血
帝王切開には、出血しやすいリスクがあります。
妊娠中は赤ちゃんを育てるために血液がお腹に集中しているため、切開すると出血しやすくなります。また、傷口が広がりやすいことも特徴です。
赤ちゃんが生まれて子宮を取り出した後、子宮からの出血が止まらずに弛緩出血を引き起こすこともあります。通常、出産後は子宮が急速に収縮して血が止まりやすくなりますが、収縮力が弱い場合や子宮の戻りが悪い場合は出血が続くことがあります。
帝王切開による出血量は500ml以上が一般的で、輸血が必要なほど大量に出血するのはまれです。
しかし、弛緩出血や前置胎盤では大量出血が起こることがあり、止血できない場合は子宮全摘が必要になるケースもあります。
参照:国立成育医療研究センター「帝王切開について」
参照:京都大学医学部付属病院「今までに帝王切開を受けたことのある妊婦さんへ」
血栓症
帝王切開には、血栓症のリスクも伴います。血栓症とは、血液が固まり血管内に血の塊ができる病気で、「エコノミークラス症候群」とも呼ばれます。
帝王切開の術後当日は、ベッドで安静にして身体を休めなければなりません。ただし、ベッドで長時間同じ体勢を続けると血液循環が悪くなり、静脈に血液が滞りやすくなるため、手術翌日から歩行を開始します。
とくに、妊娠中は赤ちゃんの重みによる血管への圧迫もあるため、下肢に血栓ができやすい状態です。血栓が肺に流れると肺の血管を閉塞し、命に関わる危険性があります。
そのため、帝王切開時には手術前から弾性ストッキングを着用し、血栓症を予防することが一般的です。
癒着が生じやすい
帝王切開を受けると、傷ついた組織が修復する過程で腹膜や腸管同士の癒着が生じやすくなります。とくに、癒着する可能性が高いのは切開した部分と腹壁の間です。
以下の症状に該当する場合は癒着のリスクがさらに高まります。
- 複数回の開腹手術を受けた場合
- 子宮内膜症
- 骨盤内感染症
- 子宮内感染が理由での帝王切開
癒着が起こると、腸閉塞や癒着胎盤といった後遺症を引き起こす可能性があります。
腸閉塞は、癒着が進行することで腸の動きが悪くなり、便が排出されずに詰まってしまう状態です。
癒着胎盤とは胎盤の組織の一部が子宮の筋肉の内側に入り込んでいる状態で、一度帝王切開を受けると起こりやすくなります。癒着胎盤になると、赤ちゃんを取り出す際にはがれかかった胎盤から、大量出血する可能性があります。
傷跡が残る
帝王切開を受けると、下腹部に10~15cmほどの傷跡が残ります。傷口は、手術の方法によって見た目が異なります。
予定帝王切開では、一般的に下腹部を横に切開するため傷跡が下着のラインに沿って目立ちにくいことが特徴です。
緊急帝王切開では縦に切開するケースがあり、傷跡が目立ちやすい傾向があります。
また、約4人に1人は傷跡が肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)やケロイドになるとされています。
肥厚性瘢痕やケロイドになると、傷跡が赤く盛り上がったり、かゆみを感じたりすることがあるため、状態によっては治療が必要です。
2人目出産時も帝王切開
1人目が帝王切開での出産だった場合、2人目も帝王切開が推奨される点もリスクといえるでしょう。
一度帝王切開を受けると、切開した部分が通常の子宮筋に比べて薄くなるため、分娩の際に合併症を引き起こしかねないためです。
妊娠中、子宮は赤ちゃんの成長に伴い全体的に引き伸ばされることから、傷跡が薄くなってしまうケースがあります。
そのため、2人目で自然分娩を選択すると以前帝王切開を受けた傷口が分娩中に開き、子宮破裂が起こるリスクが高まります。
子宮破裂の発生頻度は0.3~3.8%です。しかし、帝王切開の頻度によってリスクはさらに高まるといわれています。
参照:京都大学医学部付属病院「今までに帝王切開を受けたことのある妊婦さんへ」
参照:母子衛生研究会「出産について」
新生児の呼吸障害
帝王切開で出産すると、新生児一過性頻呼吸(多呼吸)や呼吸窮迫症候群(RDS)などの呼吸障害を引き起こす可能性があります。
お腹の中にいる赤ちゃんは、肺の中が肺水で満たされた状態です。通常、分娩時に産道を通ることで肺水が気道から押し出されたり血液に吸収されたりして、肺に空気が入るようになります。
しかし、帝王切開では赤ちゃんは産道を通らずに生まれてくるため、肺水が十分に排出されずに呼吸障害を起こす可能性があります。
新生児一過性頻呼吸は、生後数日のうちに症状が軽快することが一般的です。しかし、まれに人工呼吸器が必要となる場合もあります。
呼吸窮迫症候群はより深刻な呼吸障害で、酸素吸入や人工呼吸による換気補助が必要です。
とくに、妊娠37~38週で生まれた赤ちゃんは妊娠39週以降に生まれた場合と比べて、呼吸障害を起こす割合が約4倍高いことがわかっています。
自然分娩よりも早く赤ちゃんを出産することの多い帝王切開では、赤ちゃんの呼吸障害のリスクが高くなると考えられます。
参照:山梨大学「選択的帝王切開による満期出生と出生後の呼吸障害との関係」
帝王切開における日本の死亡率
日本での帝王切開の死亡率は、自然分娩と比べて特別高いわけではありません。
妊婦の分娩時における死亡事例の報告によると、死亡する原因となる症状が最初に現れたのは、自然分娩や吸引・鉗子分娩などでは47%、帝王切開49%とほぼ同じ割合でした。
帝王切開を受ける妊婦はもともとなんらかの問題を抱えており、死亡リスクが高い状態で手術するケースが多い傾向にあります。
つまり、帝王切開手術そのものではなく、手術前の母体の状態や術中の合併症が死亡の原因となる場合が多いのです。
帝王切開による死亡原因には、子宮破裂や癒着胎盤による大量出血、麻酔に関連する合併症などが含まれています。
死亡原因となる合併症をすべて防ぐことはできません。しかし、日本の医療水準は高く妊婦死亡率が低い国としても知られているため、リスクを抑えた出産が可能といえます。
参照:日本産婦人科医会「母体安全への提言2021」
帝王切開のリスクに関するよくある質問
帝王切開のリスクに関するよくある質問に対して回答します。
- Q.自然分娩と帝王切開はどっちがつらい?
- Q.帝王切開になりやすい人は?
- Q.帝王切開すると寿命が縮む?
Q.自然分娩と帝王切開はどっちがつらい?
自然分娩と帝王切開のどちらがつらいか一概にはいえません。それぞれに異なる大変さがあり、感じ方に個人差もあるためです。
帝王切開は手術中に局部麻酔が行われるため、出産に痛みを感じません。ただし、術後には以下のような痛みや不便さがあります。
- 麻酔が切れると傷口が痛みだす
- 傷口が擦れると痛む
- 自然分娩よりも回復に時間がかかるため入院が長引く
自然分娩は、陣痛から出産までの過程で痛みを伴います。しかし、手術を伴わないため産後の回復は比較的早いことが特徴です。
また、自然分娩は陣痛や分娩時の痛みが強く、出産の体力的な負担も大きくなります。
Q.帝王切開になりやすい人は?
帝王切開になりやすい人には、以下の特徴があります。
- 骨盤が狭いまたは変形している
- 産道に脂肪が付き狭くなっている
- 高齢出産
骨盤の大きさや形によっては、赤ちゃんが産道を通りにくいため帝王切開が必要です。とくに低身長の女性は、骨盤が狭い傾向があります。
また、産道に脂肪が付く原因の一つとして、過度な体重増加が挙げられます。妊娠中の体重増加は自然なことですが、著しく増えると難産のリスクが高まるため適切な体重管理が必要です。
さらに、高齢出産では軟産道が硬くなることで難産になるリスクが高まることから、帝王切開になる場合があります。
Q.帝王切開すると寿命が縮む?
医学的には、帝王切開が寿命を縮めるという報告はされていません。帝王切開は出産方法の一つであり、寿命に対する影響はないと考えられています。
帝王切開のリスクをふまえて、最善の選択をしましょう
自然分娩が難しいと判断された場合、帝王切開となることがあります。帝王切開は手術であるため、出血や癒着などのリスクが伴うのも事実です。
しかし、帝王切開は医療の発展によりリスクが軽減され、選択肢の一つとして多くの女性に広く受け入れられている出産方法です。
麻酔技術の進歩や術後のケアの充実により、手術後の回復も早くなりました。大切なのは、自分にとって適した出産方法を選ぶことです。
もし帝王切開に関して不安がある場合は医師と十分に相談し、自分と赤ちゃんにとって最良の選択をしましょう。