お腹が大きくなる妊娠後期には、さまざまな理由から腹痛が起きる可能性があります。「妊娠後期の腹痛への対処方法を知りたい」「妊娠を経験する前に妊娠後期の腹痛の原因を知っておきたい」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
妊娠後期の腹痛は問題ないものもあれば母子の生死に関わる緊急性の高いものもあり、適切に対処することが大切です。
本記事では妊娠後期の腹痛の原因や痛みの対処法、受診の目安などを解説します。腹痛が起きた際に落ち着いて対応するために、ぜひ参考にしてください。
妊娠後期の妊婦さんの状態は?
妊娠後期とは、妊娠8ヶ月(28週)〜10ヶ月(39週)の約3ヶ月間のことを指します。赤ちゃんの臓器の機能が完成し、出産に向けて成長する時期です。個人差はありますが、赤ちゃんの体重は1,300〜3,200gになり、赤ちゃんが成長するにつれて妊婦さんの身体にもさまざまな変化が起きます。
赤ちゃんが成長すると子宮が大きくなり、子宮の周辺にある膀胱や腸などの他、胃や肺などの上半身にある臓器も圧迫されます。膀胱や腸が圧迫されることで起こる頻尿や便秘などの泌尿器系のお悩みも妊娠後期によく見られる症状です。また、胃や肺などの上半身にある臓器は大きくなった子宮に押し上げられるため息苦しくなりやすくなります。
ホルモンバランスの変化も、妊娠後期の妊婦さんの体調変化に関係している要素のひとつです。妊娠中は女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)のバランスが大きく変化します。とくに、妊娠後期は出産への準備のために、女性ホルモンの分泌量が増加する時期です。こうしたホルモンバランスの変化により、強い眠気が出たり便秘になったりと体調にも影響が生じます。
参照:妊娠中の検査に関する情報サイト「妊婦のからだの変化」
妊娠後期の腹痛の原因と対処法
妊娠後期の腹痛は、以下などのさまざまな原因が考えられます。
・前駆陣痛
・ホルモンバランスの変化にともなう下痢や便秘
・子宮や靭帯の伸び
・常位胎盤早期剥離
・切迫早産・早産
落ち着いて適切な対処をするために、原因別の対処法を解説します。
前駆陣痛
前駆陣痛は出産予定日が近づくと起こる腹痛で、本格的な陣痛が起きる前段階の痛みのことです。子宮が不規則に収縮して起きるもので、身体が出産の準備をしているサインといえます。
前駆陣痛は1回の痛みの持続時間が短く、しばらくすると自然に治まるのが特徴です。前駆陣痛が起きた際には楽な姿勢で身体を休め、安静に過ごしましょう。
痛みやお腹の張りが長く治まらなかったり頻繁に痛んだりする場合には産院へ相談してください。また、出血や水っぽいおりものが出た際にもすぐに産院へ相談し指示を受けましょう。
参照:医療法人竹村医学研究会(財団)「7.いつ入院したらいいの?」
ホルモンバランスの変化にともなう下痢や便秘
妊娠後期には、ホルモンバランスの変化によって下痢や便秘が起きることもあります。先述した通り、妊娠後期には女性ホルモンの分泌量が増加します。
下痢や便秘にとくに関係しているのが、腸の働きを抑制する働きをもつプロゲステロンです。プロゲステロンは腸の平滑筋の働きを抑制し、便の水分を吸収する働きをします。排便を促す動きが抑制され、便の水分量も減少することにより、便秘が起きやすくなるのです。
さらに、プロゲステロンが多く分泌されてホルモンバランスが崩れると、消化器官の働きを司る自律神経が乱れます。消化器官の動きが鈍くなることで下痢が起きやすくなるのです。
ホルモンバランスの変化による下痢や便秘は、軽度であれば自然に治ります。便意を催した場合はすぐにトイレで排泄することが大切です。消化器官に負担をかけづらい食事や、脱水防止のためのこまめな水分補給を心がけましょう。
参照:兵庫医科大学病院「慢性便秘症」
参照:医療法人中川産科婦人科「第108回「妊娠中によくある症状(その2)」
子宮や靭帯の伸び
子宮や靱帯が伸びたことも、妊娠後期に起きる腹痛の原因のひとつです。赤ちゃんの成長にあわせて子宮は大きくなり、子宮の外側にある円靱帯も引き伸ばされます。
こうした腹痛を円靭帯痛と呼び、「チクチク」または「ズキズキ」と引っ張られるような痛みがみられるのが特徴です。赤ちゃんの胎動によって子宮や円靱帯が引っ張られ、「ギュー」と絞られる感じの痛みを感じるケースもあります。
子宮や靭帯の伸びによる腹痛が起きたときには、横になって安静に過ごしましょう。また、ガードルを使用して腹部を支えることで痛みの軽減が期待できます。ただし、痛みが長時間続いたり強く感じたりする場合には産院へ相談しましょう。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離が原因で、妊娠後期の腹痛が引き起こされる場合もあります。常位胎盤早期剥離とは、分娩前に胎盤が剥がれてしまう状態のことです。激しい痛みや出血をともなう他、赤ちゃんに酸素が届けられなくなるため、母子ともに危険な状態です。
痛みが長時間続いたり出血がみられたりするなら産院へ連絡し、場合によっては救急車を呼びましょう。赤ちゃんや胎盤の状態を確認し、常位胎盤早期剥離と診断されると、医師の判断で緊急帝王切開が行われることがあります。
参照:埼玉医科大学病院「産婦人科」
切迫早産・早産
切迫早産や早産が腹痛の原因の場合もあります。早産とは、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産のことです。新生児に重篤な障害が出る可能性があり、出産後に長期間の新生児医療が必要なケースもあります。
切迫早産とは、早産になる危険性が高い状態のことです。規則的な子宮収縮が頻繁に起こったり子宮口が開いたりしている場合に、切迫早産と診断されます。
切迫早産や早産では、下腹部の張りや痛みの他に性器からの出血や破水が起こります。腹痛に加えてこれらの症状がみられる場合には、速やかに産院へ相談しましょう。
参照:公益社団法人日本産科婦人科学会「早産・切迫早産」
妊娠後期の腹痛がある場合の病院を受診する目安は?
妊娠後期に腹痛がある場合、以下の症状を目安に病院を受診しましょう。
・軽い腹痛や張りが長時間続く、頻繁に繰り返す
・腹痛がだんだん悪化する
・腹痛以外に性器からの出血がある
・赤ちゃんの鼓動が感じられなくなる
軽い腹痛や張りの場合、安静にしていれば短時間で症状が治まることが多くあります。しかし、30分〜1時間以内で治まらず長時間続いたり頻繁に繰り返したりするなら念のため産院へ相談しましょう。
腹痛がだんだん悪化したり性器から出血したりしている場合は、速やかな処置が必要な可能性が高い状態です。緊急性が高い状態のため、急いで産院へ連絡しましょう。
妊娠後期の腹痛の予防・対処法
妊娠後期の腹痛は以下のような適切な対処により予防が可能です。
・身体を冷やさない
・食生活を整える
・性行為を控える
・医師に相談してから薬を服用する
・ストレスを溜めない
それぞれどのような予防・対処法なのかを解説します。
身体を冷やさない
妊娠後期の腹痛を予防するには、身体を冷やさないことが大切です。身体が冷えると血液の流れが悪くなり、お腹の張りや便秘・下痢などさまざまな不調が引き起こされます。
冷えを予防するには以下の方法を試してみましょう。
足首を覆う靴下を履いて足を冷やさない
カーディガンやストールなどを活用する
飲み物は温かいものや常温で飲む
半身浴で身体を温める
身体を冷やさないために、服装を見直して温かい格好を心がけましょう。また、内臓を冷やす冷たい飲み物は避け、温かい状態や常温で飲むことも冷え対策につながります。半身浴で身体を温めると、血流をよくする効果も期待できます。身体を外からも内からも温め、身体が冷えないようにしましょう。
食生活を整える
食生活を整えることも、腹痛対策につながります。食物繊維や水分を十分に摂取すると、便秘や下痢を防ぎやすくなります。
食物繊維は整腸作用がある栄養素です。便を柔らかくする水溶性食物繊維と、便のかさを増す不溶性食物繊維があります。
便秘を防ぐには、便を柔らかくする水溶性食物繊維の摂取が効果的です。また、不溶性食物繊維は便のかさを増やして便通を促します。
ただし、どちらの食物繊維も過剰摂取すると逆に便秘や下痢につながるため注意が必要です。2種類の食物繊維をバランスよく摂取するよう心がけましょう。
参照:e-ヘルスネット「食物繊維」
性行為を控える
腹痛を予防するには、性行為を控えることも大切です。性行為によりお腹が圧迫されたり、性器や精子から細菌へ感染したりする危険性を回避しましょう。
妊娠中の性行為は禁止されていませんが、女性の身体に負担がかかるおそれがあります。また、精子には子宮を収縮させる働きがあるホルモンが含まれています。精子による影響や細菌感染を防ぐためにも性行為は控えましょう。
医師に相談してから薬を服用する
妊娠後期の腹痛に悩んでいる場合、医師に相談してから薬を服用しましょう。薬を使用すると妊婦や赤ちゃんになんらかの影響が起きる可能性があります。
多くの薬剤は妊娠中に服用しても問題ないといわれていますが、赤ちゃんへ大きな影響を与えることがわかっており、妊娠中は禁忌の薬もあります。例えば、妊娠末期に腰痛の鎮痛剤としてボルタレン坐剤を複数回使用したことにより、死産になった事例があります。
抗生物質であれば、クラビットやジェニナックなど、胎児へ影響するものがあるため注意が必要です。また、赤ちゃんへの影響が検証されておらず安全性が確立されていないものも少なくありません。
妊娠中は医師に相談したうえで、適切な薬を処方してもらいましょう。
参照:日本医師会「医療従事者のための医療安全対策マニュアル(本文)」
参照:順天堂大学医学部附属静岡病院産婦人科「こうのとりくりくらぶ Vol.45 2017年春号」
参照:日本医師会「妊娠または妊娠している可能性のある婦人に禁忌の主な医薬品リスト」
ストレスを溜めない
妊娠後期の腹痛を防ぐには、ストレスを溜めないことも大切です。ストレスを溜めずに解消することで自律神経が整い、心身の不調を防げます。
妊娠後期になると、お腹が大きくなったことで日常動作が制限されたり圧迫感から睡眠不足になったりしがちです。これらがストレスになり、自律神経の乱れにつながります。軽い運動で身体を動かしたり寝られるときにしっかりと睡眠を取ったりしてストレスを解消しましょう。
妊娠後期の腹痛は適切に対処して無理をしないことが大切
妊娠後期は赤ちゃんも妊婦も出産に向けた準備をしている時期であり、適切に対処し無理をしないことが大切です。一時的な腹痛であれば問題ないケースもありますが、激しい痛みや出血などをともなう場合は産院へ相談しましょう。産院へ相談すれば、万が一問題があっても早期に対応できます。
腹痛を防ぐためには、日頃から身体の冷え予防やストレス解消などの対策を心がける事も大切です。担当医とも相談し、適切なアドバイスを受けましょう。