出生前診断後の対応について、不安を感じていませんか?
この記事では「出生診断後の中絶」について解説します。
結論、出生前診断に関わらず、中絶は22週未満まででです。日本の法律では、22週未満までしか中絶は認められていません。
その他にも「出生前診断の倫理的問題」や「出生前診断で中絶を選んだ経験談」についても解説するので、出生前診断や中絶を改めて考える参考にしてください。
また「出生前診断の倫理的問題」については、こちらで解説を行っていますのでぜひ確認してみてくださいね。
出生前診断による中絶は倫理的問題も
日本では、出生前診断の倫理的な問題がたびたび話題になっています。なぜなら出生前診断により胎児に先天的な疾患や障害があると、中絶が選択される割合が非常に高いためです。
「出生前診断は命の選別につながる」として反対する声は少なくありません。しかし実際のところ、疾病・障害を持つ子を育てるのは、簡単ではないでしょう。環境・費用などから出産を諦める夫婦も多いものです。
出産を諦める場合には人工妊娠中絶について考える必要があります。「いつまで中絶できるのか」「中絶するなら何を考えるべきなのか」と不安を抱えている夫婦も多いでしょう。
中絶ができる時期
日本で人工妊娠中絶ができる時期は、母体保護法により妊娠22週未満と決められています。
母体への負担を減らすなら、妊娠6~9週までの初期中絶が良いでしょう。
妊娠10週を過ぎると胎児が成長して手術の難易度も上がります。
さらに12週以降では薬を使って人工的に流産させる中期中絶が一般的です。12週以降に中絶すると、死産の届け出や埋葬も必要になり、心身への負担が大きくなります。
そのため可能であれば、妊娠11週までの手術を考えましょう。
中絶が認められる条件
人工妊娠中絶は、以下どちらかの条件を満たす時に認められます。
- 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
- 暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
日本での人工妊娠中絶は、ほぼ1つめの項目にあてはまるものだと言われています。
ただしどちらかの条件を満たす場合であっても、妊娠22週以降の人工妊娠中絶はできません。
初期中絶と中期中絶の違い
初期中絶と中期中絶の違いとして挙げられるのが、手術方法・母体へのリスク・費用です。
11週6日までの初期中絶は日帰りも可能で母体への負担も少なく、費用も抑えられます。しかし12週以降の手術は基本的に入院が必要で、費用も出産と同程度となり高額です。
原則として保険が適用されないため、中絶費用はすべて自己負担になります。
母体への負担と費用を抑えるのなら、初期中絶を考えると良いでしょう。
中絶が間に合わない場合
22週までに中絶が間に合わない場合の選択肢は、以下の2つです。
- そのまま出産する
- 海外で中絶する
基本的に22週を過ぎた中絶は違法となるため、国内では不可能です。そのため海外での中絶も考えられますが、国により医療レベルには大きな違いがあります。大抵のケースでは、そのまま出産することになるでしょう。
出生前診断で中絶を選んだ経験談
出生前診断で中絶を選んだ経験談について紹介していきます。
日本では、出生前診断で陽性だった人のうち、95%以上が人工妊娠中絶を選択している状況です。人工妊娠中絶にはタイムリミットがあるため、短期間で重い決断をしなくてはなりません。
検査で陽性が確定して最初の子どもを中絶した女性は、以下のように語っています。
本当に障害の子を育てていく大変さが・・・。私は身近にはそういうことがなかったので。普通の学校にも行けるんじゃないかな?っていうくらいの気持ちでいたんですけど。旦那さんに『そんな簡単な話じゃないよ』って。きれいごとでは済まされないし。『私たちが死んじゃったあととかどうするの』とか。『障害がある子を育てていくのって本当に一生のことだから諦めようね』っていう話をした
引用元:NHK福祉情報サイトハートネット 【特集】出生前検査(3)「産むか、産まないか」つらい決断を迫られた親たちのケア
「障害や疾病がある子だった場合、自分たち夫婦が死んだあとはどうするのか」と悩む夫婦は多いです。行政サービスだけで十分なのか、不安に感じてしまうのも無理はないでしょう。
女性は中絶に抵抗感があったものの、夫が反対し、結果的に中期中絶を選択したケースもあります。
私は、どうやって日一日と大きくなっていく、この赤ちゃんと別れられるのかわからないのに夫は一歩も退かず、絶対に育てられないと言い続けました。
出生前診断を受けたとしても、必ずしも結果が陽性になるとは限りません。
しかし陽性になった時どうするかは、あらかじめ夫婦で話し合っておくと良いでしょう。
中絶手術の方法
妊娠初期と妊娠中期の中絶手術では、方法が大きく変わってくるため注意が必要です。
そこで中絶手術の方法についても簡単に紹介します。どのような方法があるのか、参考として内容をチェックしてみてください。
妊娠初期の中絶手術
妊娠初期(4週~11週6日まで)の中絶手術では、吸引法または掻爬(そうは)法が行われます。吸引法とはWHOも推奨している中絶方法で、吸引管を子宮頸管内に挿入して胎児や胎盤を吸い出す方法です。
手術室に入ってから10分ほどで手術が始まりますが、約3分で終了します。麻酔をしているため痛みはなく、日帰りでの手術が可能です。
掻爬法では医療器具を使用して胎児や胎盤を子宮から掻き出します。見えない状態での手作業であるため、掻爬法には高い技術が必要です。
母体にかかる負担は、吸引法より高くなります。
妊娠中期の中絶手術
妊娠中期(12週以降)の中絶手術では、分娩が必要になります。そのため、入院しなければいけません。
対応できるのは、母体保護法指定医が在籍する入院設備が整っている病院で、費用は45万円程度です。
中絶手術ではありますが、母体保護法による分類では「人口死産」という扱いになります。
そのため、役所へ死産届を出さなければいけなかったり、埋葬しなければけなかったりと、初期の中絶よりも、精神的に重いものとなってしまうでしょう。
中絶を決めるタイミング
中絶を決めるタイミングは、なるべく早めが良いでしょう。病院により設定されている時期は違いますが、NIPTは妊娠10週~15週までのあいだに受けるのが一般的です。
ただし非確定検査であるため、異常が出たら確定検査を受ける必要があります。確定検査である「羊水検査」が受けられるのは妊娠16週~17週で受検可能な病院が多く、結果が届くのは約2週間後です。
人工妊娠中絶ができるのは22週までなので日数に余裕がありません。
そのためNIPT検査が可能となる10週0日を超えたら早めにNIPT検査を受検すること、万が一陽性になった場合のために「羊水検査」ができる病院探しも事前に行っておく置くことをおすすめします。
中絶に関する法律
22週を過ぎると中絶手術はできなくなります。なぜなら中絶は22週までと法律で決められているからです。
中絶に関する法律には、母体保護法と刑法の2つがあります。それぞれの内容について簡単に紹介します。
母体保護法
母体保護法とは、母体の生命や健康の保護を目的に制定されている法律です。
日本では基本的に「堕胎は違法である」と定めています。しかし母体保護法で定められた条件に当てはまる場合には、合法的に人工妊娠中絶が可能です。
条件を満たさないと「堕胎罪」にあたるため、手術を受けることができません。
刑法
中絶については刑法の212条~216条も参考になります。
以下のような状況にあてはまると罪に問われるため、気をつけなくてはなりません。
- 自分で薬を使って堕胎すること(自己堕胎罪)
- 医師や助産婦が依頼を受けて堕胎させること(業務上堕胎罪)
- 同意を得ずに女性を堕胎させること(不同意堕胎罪)
さらに刑法には、同意堕胎罪・不同意堕胎致傷罪などもあります。法律的に問題のある中絶手術はできないため、くれぐれも注意しましょう。
中絶手術が与える影響
病院での人工妊娠中絶は、母体に影響しないよう最大限の配慮が行われています。そのため基本的には人工妊娠中絶も安全です。個人差はありますが、次の生理も1か月前後で来ます。
ただしまったく体に影響が出ないわけではありません。
中絶手術が母体に与える影響も紹介します。
合併症
中絶手術には合併症のリスクがあります。
合併症で特に代表的なものが、以下の2つです。
- 遺残……胎児や胎盤が子宮内に残ること
- 子宮穿孔……子宮に穴が開くこと
子宮穿孔を起こすと、細菌が腹に漏れて腹膜炎を引き起こす可能性があります。どちらも滅多に起きませんが、リスクとして把握しておきましょう。
次の妊娠に与える影響
中絶手術を受けても、やがて時間が過ぎれば子宮は妊娠前と同じような状態になります。しかし遺残や子宮穿孔などの合併症があると、次の妊娠に影響する可能性があるでしょう。
また、何度も中絶手術をすると癒着により不妊につながるおそれがあります。
ただし中絶手術の合併症は非常に稀なものです。中絶をしたからといって、必ずしも合併症を引き起こすわけではありません。出産を望んでいるのなら、何度も中絶を繰り返す可能性も低いでしょう。
そのため次の妊娠については過剰に心配する必要はないと考えられます。
メンタル
中絶の選択は、女性のメンタルにも大きく影響します。
授かった子を中絶について「周囲に話せない・つらい」と悩む女性も少なくありません。死産に対するケアは比較的多いものの、中絶した女性へのケアは多くないのが現実です。その精神的負担によりホルモンバランスが崩れてしまい、結果として不妊になる女性もいます。
強いストレスを抱えてしまわないよう、メンタルのケアを行いましょう。
中絶を考えたらまずするべきこと
出生前診断の結果を受けて中絶を考えたら、早めに行動を開始しましょう。決断できないからと先延ばしにするのはおすすめできません。
中絶を選択する可能性があるのでしたら、リミットである22週を過ぎないよう注意が必要です。
そこで中絶を考えたらまずするべきことを3つ紹介します。何をすべきか、内容をチェックしてみましょう。
早い段階での受診・相談
NIPTは非確定検査となっているため、中絶をするのなら確定検査を受ける必要があります。そのため陽性の結果が出たら、なるべく早い段階で病院を受診しましょう。
羊水検査を受けられるのは、基本的に妊娠15~18週です。15週より前だと羊水の量が不十分であるため、検査が受けられません。
その後の流れをスムーズにするためにも、早めに羊水検査について相談しておきましょう。
家族への相談
出生前診断後は、早めに家族への相談を行いましょう。特にパートナーとは、なるべく早く話し合いを持つのがおすすめです。
中絶に対する考えは人それぞれ大きく違います。夫婦であっても考え方が違う可能性は十分に考えられるでしょう。家族の反対を受け、妊娠の継続を諦める人も少なくありません。
自分がどうしたいのかを考えると同時に、家族の意見を聞いておくのも大切です。できれば結果が出る前に、夫婦でどうするかを考えておくと良いでしょう。
遺伝カウンセラーへの相談
もし「中絶したい」と考えるのなら、遺伝カウンセラーにも相談してみましょう。遺伝カウンセラーは、専門家として正確かつ最新の情報を教えてくれる存在です。疾患についてだけでなく、社会的なサポートについても熟知しています。
そもそも出生前診断を行う目的は、出産するかを決めるためのものではありません。出生前診断は、母体の健康を維持し、産後の育児計画を考えるのが本来の目的です。専門家のアドバイスにより、中絶以外の選択肢が考えられるかもしれません。
まずは早い段階で、遺伝カウンセラーに相談するのがおすすめです。
出生前診断後の中絶は22週まで
出生前診断の結果により、中絶を選択する場合は、21週6日までに行いましょう。そもそも22週を超えてしまうと中絶手術は受けられません。
また、中絶を選択するのであれば、できるだけ早めにしておくと良いです。母体への影響も少なくなります。
しかし、中絶の選択をするのはメンタル面でも大きな負担となるので、出生前診断を受ける場合は、遺伝カウンセリングのいるクリニックを選んでください。