この記事では「着床前診断の費用」について解説します。
結論、着床前診断の費用は安いものではありません。
なぜ着床前検査の費用は高額になるのか、着床前診断の特徴について、ここではまとめています。
他にも「着床前診断の流れ」や「着床前診断を受けられる医療機関」についても解説するので、ぜひ今回の記事を参考に、着床前診断を検討してみてください。
また「NIPTの検査結果の種類」に関しては、こちらで解説しています。
着床前診断とは
着床前診断とは、着床の検査ではなく、受精卵の細胞分裂によって得られた胚の染色体数を調べる検査です。
体外受精させた受精卵を子宮へ移植する前、つまり妊娠成立する前に行うため「着床前診断」と呼ばれています。検査で遺伝子や染色体の異常のない可能性の高い胚のみを子宮へ戻し、染色体異常などの流産を予防できると期待されている医療行為です。
以下では「どのような目的があるのか」や「対象者」について解説します。
精着床前診断の目的
着床前診断の目的は、流産する確率を引き下げるためと、妊娠が継続できる確率を向上させるためです。流産を繰り返してしまい、妊娠の継続が難しい不妊夫婦やカップルが妊娠を継続させるために行われます。
なお、着床前診断による男女の産み分けなどは、生命の選別や優生思想の観点から禁止されています。
着床前診断の対象者
現代の日本において、着床前診断は全ての不妊夫婦(カップル)や希望者が行えるわけではありません。
日本産科婦人科学会により、個別審査を経た対象者のみに実施できる医療行為です。
着床前診断の対象となる条件は以下のとおり。
- 直近の2回の胚移植で妊娠しなかった場合や、過去2回以上の流産歴
- 重篤な遺伝性疾患に罹患した子の出生リスクの高い夫婦(カップル)※日本産科婦人科学会により事例ごとに個別審査が行われます。
- 染色体転座や逆位などの構造の変化を持つ夫婦が流産を繰り返す場合
着床前診断は、上記の条件に該当し、なおかつ夫婦の強い希望や合意を得られた場合に受けられます。
また、着床前診断の「重篤性の定義」については「日常生活を強く損なう症状が出現したり、生存が危ぶまれる状況になる疾患で、現時点でそれを回避するために有効な治療法がないか、あるいは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要のある状態」が基準です。
着床前診断と出生前診断の違い
着床前診断と同じように、遺伝子や染色体の異常を調べる検査として「出生前診断」があります。
「着床前診断」と「出生前診断」は両者とも出産前に行う検査ではありますが、行うタイミングが異なる別の検査。実は妊婦健診で行われる超音波検査や、胎児心拍数モニタリングなども出生前診断に含まれています。
一方で、着床前診断の場合は、妊娠が成立する前に行う検査です。
着床前診断と出産前診断は、タイミングや検査方法が異なることを覚えておきましょう。
出生前診断とは
出産前、お腹にいる赤ちゃんに先天性の病気や障害がないかを調べる検査です。
妊娠10週前後に、胎盤の絨毛細胞を一部採取して行う「絨毛検査」と、妊娠16週前後に羊水を採取して検査する「羊水検査」があります。
また、医院によっては採血だけでできる「新型出生前診断(NIPT)」を選択できますが、
新型出生前診断(NIPT)は腕からの採血のみで、絨毛検査と羊水検査よりも流産リスクが低いというメリットがあります。
着床前診断の流れ
診断対象の不妊夫婦(カップル)が着床前診断を受ける際、以下の流れで行われます。
- 検査
- 遺伝カウンセリング
- 体外受精
- 遺伝学的検査
- 胚移植
着床前診断は、不妊夫婦やカップルの染色体や遺伝子を調べ、日本産科婦人科学会の認定を受けたのちに治療を開始できます。
検査~胚移植までの流れを解説するので、参考にしてください。
1.検査
日本産科婦人科学会認定の医療機関で最初に行われるのが問診・検査です。
医師による問診や夫婦の染色体検査などを行ない、着床前診断の対象であるかなどを確認します。
2.遺伝カウンセリング
医療機関に所属している遺伝カウンセラーと、外部の専門家(第三者)から遺伝カウンセリングを受けます。
遺伝に関する悩み相談はもちろん、検査や遺伝性の疾患について分かりやすく説明してもらい、より理解を深める場面です。さらに、医療機関によっては心理面や社会面も含めた支援を行う場合もあります。
また、遺伝カウンセリングは“セカンドオピニオン”という扱いです。施設ごとに設定された価格での自費診療になり、遺伝カウンセリングは約5,000円~10,000円になります。
3.体外受精
日本産科婦人科学会に承認されたら、卵子と精子を取り出して受精させる「体外受精」を行います。
女性は薬を使って採卵を行い、男性は精子を摂取。
体外受精には2つの方法があります。
- 媒精法:シャーレ内で採取した卵子に精子を振りかけ自然に受精させる
- 顕微授精法:顕微鏡で卵子を観察しながら精子を直接注入して受精させる
方針は、医療機関によって異なるので、気になる場合は事前に確認しておきましょう。
4.遺伝学的検査
体外受精してできた「受精卵」は、複数の細胞に分裂し「胚(はい)」と呼ばれます。
着床前診断は受精後2~3日目の胚を採取して検査(胚生検)を行い、胚からDNAを取り出して、遺伝子や染色体を調べ異常がないかなどを確認します。
5.胚移植
遺伝学的検査を行って異常が見当たらず、健康である可能性の高い胚を子宮へ移植します。
その後、約2週間後に、妊娠の成立が確認できます。
着床前診断にかかる費用
一般的に、着床前診断にかかる費用は50~100万円と高額です(自費診療)。
着床前診断は体外受精を行いますが、体外受精だけでも1回につき38万円程の費用がかかるとされています。
体外受精にかかる費用+胚生検や遺伝学的検査の費用がかかるため、高額にならざるを得ないということですね。
また、胚を複数調べる場合は胚の数だけ費用がかかります。
遺伝学的検査をした際に、子宮に戻せる卵子がない場合は採卵を繰り返さなければいけないため、さらに費用がかさんでしまうでしょう。
※2018年から特定の遺伝性疾患に対しては遺伝学的検査に保険が適応となり、2022年には不妊治療の一部が保険適用となりました。
これらには着床前診断も保険適用枠に含まれています。
着床前診断の助成金例
市や自治体によっては、助成金制度を設けている場合があります。例えば札幌市の場合は、自己負担費用につき10万円までを上限として助成金が交付。
年間の助成回数や通算助成期間に制限はなく、1回の治療期間が終了した日の翌日から2ヶ月以内に申請をする必要があります。市や自治体によって助成金制度が異なるため、着床前診断を検討しているのであれば、市や自治体に問い合わせてみましょう。
出生前診断の費用
出生前診断の費用は、一般的に5~25万円と幅広い相場になっています。
なぜなら、出生前診断にも種類があり、どの検査かによって金額が異なるからです。また、採血費と検体輸送費、検査説明費用などを含んだ価格である場合がほとんどであるため、安価では受けられません。
着床前診断と違って助成金が出ないため、出生前診断は自費診療となります。
着床前診断を受けられる医療機関
着床前診断は「日本産科婦人科学会」から認可されている医療機関に限られています。
生殖医療についての実績が十分であると認められた医療機関でしか、受けられませんでした。
しかし、近年では着床前診断が医療行為として扱われるようになり、実施できる医療機関が増えています。
着床前診断を検討しているのであれば、不妊治療を行っている医療機関に直接問い合わせてみましょう。
日本産科婦人科学会とは
日本産科婦人科学会は、公益社団法人です。
第3条 この法人は、産科学及び婦人科学の進歩・発展を図りもって人類・社会の福祉に貢献することを目的とする。
引用元:公益社団法人日本産婦人科学会
産婦人科の専門家集団として、科学的根拠をもとに生殖医療のあり方を紐解き、出生前診断などの対応を行っています。
医療・医学としての合理性を保ち、当事者である女性に一貫して寄り添うものであるべきとの考えを示し、法律により公益性の認定を受けている学会です。
女性の健康と、女性から産まれるすべての人々の健康のために研究を続けています。
着床前診断のメリット
着床前診断は、不妊治療に対して大きく貢献する以外にも、様々なメリットがあります。
メリットは主に、以下の4つです。
- 病気の遺伝を防げる
- 人工妊娠中絶を防げる
- 母体の心身ダメージを回避
- 妊娠までの時間を短縮できる
なぜそれぞれのメリットが生じるのか、以下で解説します。
病気の遺伝を防げる
着床前診断を行えば、事前に染色体の異常に気付けます。
すでに夫婦のどちらかに染色体異常が分かっている場合は、子どもを望むにも勇気がいるかもしれません。
「重い病気が子どもに遺伝するかもしれない」と不安な気持ちで子どもを産む決断をするのは、簡単ではありません。
しかし、着床前診断を行うことによって特定の病気にかかっていないと分かった胚で妊娠できるため、妊娠を躊躇していた人でも、安心して出産に挑めます。
人工妊娠中絶を防げる
出生前診断でお腹の赤ちゃんに何らかの障がいや病気が発覚した場合、中絶を選ぶ夫婦もいます。
しかし、着床前診断であれば、健康的な赤ちゃんを妊娠できる可能性が高いです。
そのため、人工妊娠中絶という決断をしなくて済みます。
母体の心身ダメージを回避
着床前診断は、身体だけではなく、精神的なダメージも回避できます。着床前診断では、着床前に染色体異常とする胚の選別をするため、染色体異常を原因とする流産のリスクが減少するのです。
流産のリスクが減るため、流産に伴う精神的・身体的苦痛を回避できるでしょう。
妊娠までの時間を短縮できる
着床前診断は、質のいい胚で体外受精できるため、妊娠するまでの時間を短縮できます。
不妊症で妊娠しずらい・赤ちゃんが子宮に留まりずらい人にとっては大きなメリットです。
妊娠活動をしてもなかなか妊娠できない人は、着床前診断を検討してみましょう。
着床前診断のデメリット
着床前診断には、デメリットもあります。
主なデメリットは、以下の2つです。
- 費用が高い
- 検査の判定が不明確
メリットも多くありますが、デメリットについても理解しておきましょう。
以下でデメリットについて解説するので、着床前診断を検討するための、参考にしてください。
費用が高い
着床前診断は、費用が高額です。
一般的に50~100万ほどの料金がかかるうえ、場合によっては追加料金がかかってしまいます。
そのため、金銭的な余裕がなければ着床前診断を受けるのは厳しいでしょう。
検査の判定が不明確
着床前診断の判定は確実なものではなく、不明確な点があげられます。
胚に「モザイク」と呼ばれる通常の細胞と異常な細胞の両方があると、正しく判定できない可能性が高いのが現状です。
着床前診断は受精胚の一部を採取して検査するため、受精胚の全体を反映できず、正確な判定がしにくい面もあります。
着床前診断の注意点
着床前診断を行う上で、注意しておきたいポイントが2つあります。
- 特定の遺伝性疾患しか分からない
- 100%の結果ではない
また、検査をしても着床因子などの理由で流産してしまうケースもあります。
着床前診断を行う前に、注意点についても理解しておきましょう。
特定の遺伝性疾患しか分からない
不妊症には、染色体異常症や先天的疾患の種類と症状など、あらゆる可能性が考えられます。
しかし、着床前診断では、特定の遺伝性疾患のみしか調べられません。
遺伝情報の量が少ない場合は、判定に影響する可能性も考えられます。また、着床前診断では胚を検査するため、生まれてきた赤ちゃんに与える長期的な影響については、まだはっきりと分かっていません。
100%の結果ではない
赤ちゃんの細胞自体を検査しているわけではないため、検査の結果は100%ではありません。
異常ではないのに、数的異常ありと判定がでる可能性もあります。しかし、逆に数的異常があるのに移植可能と判定される場合もあります。
不確定要素があるということを理解したうえで、着床前診断を受けるようにしましょう。
着床前診断の前に相談をしましょう
着床前診断は、相談してから行いましょう。
着床前診断の費用は、とても高額なので、一人の意志では決められません。医者やカウンセラー、パートナーとよく相談した上で、実施を検討すると良いでしょう。メリットだけではなくデメリットもあるので、それぞれを理解した上で検討してください。