出生前診断に対して、不安を感じていませんか?
この記事では「出生前診断の倫理的問題」について紹介します。
結論、出生前診断の倫理的問題に対しては、あらゆる意見があります。倫理的問題に指摘する人や、出生前診断に反対する人もいれば、受け入れている人もいるので、一概に倫理的に良い悪いとは言えるものではありません。
実際にどのような意見があるのか、日本と海外での倫理的観点の違いなどについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
また「NIPTで陽性になった場合」については、こちらで解説を行っていますのでぜひ確認してみてくださいね。
出生前診断の倫理的問題とは
出生前診断の倫理的問題とは「胎児に先天的な疾患や障害があった場合に中絶するのは許されるのか」というものです。
基本として、出生前診断は以下のような目的で行われています。
- 母体の健康維持
- 分娩方法の決定
- 産後の育児計画
- 療育環境の検討
しかし出生前診断を受けた結果として、人工妊娠中絶を選択する夫婦も少なくありません。そのため出生前診断は「命の選別」につながっているとして、倫理的な問題があると考える人も多い傾向にあるのです。
母体保護法の関係
出生前診断は、母体保護法とも大きく関係しています。
原則として日本は堕胎を違法としていますが、母体保護法により、特定の条件下での人工妊娠中絶は可能です。
一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの引用元:母体保護法
さらに人工妊娠中絶の時期は、母体への負担が少ない21週6日までと定められています。なぜなら中絶をするタイミングにより母体へのリスクが大きくなるからです。
出生前診断の結果を受けて人工妊娠中絶をする場合には、早めに決断する必要があります。
母体保護法とは
母体保護法とは、名前の通り「母体の生命・健康の保護」を目的として制定された法律です。
前法となるのが1948年に公布された「優生保護法」。
1996年の法改正により優生思想に基づく部分が削除されて、「母体保護法」と改められました。母体保護法により、人工妊娠中絶を行えるのは、医師会からの指定を受けた「母体保護法指定医」のみとなっています。
その他中絶に関する法律
母体保護法以外で中絶(堕胎)について触れているのが刑法です。刑法での堕胎に関する項目についてもチェックしておきましょう。
内容は以下の通りです。
第二百十二条(堕胎) | 妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、一年以下の懲役に処する。 |
第二百十三条(同意堕胎及び同致死傷) | 女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者は、二年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。 |
第二百十四条(業務上堕胎及び同致死傷) | 医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、三月以上五年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、六月以上七年以下の懲役に処する。 |
第二百十五条(不同意堕胎) | 女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 |
第二百十六条(不同意堕胎致死傷) | 前条の罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 |
母体保護法の要件が適用される人工妊娠中絶については、母体保護法で認められています。病院で人工妊娠中絶をするのなら、基本的に堕胎罪は適用になりません。
出生前診断は命の選別という意見
出生前診断は「命の選別」である、という意見もあります。
実際の意見も2つ見てみましょう。
出生前診断が抑制的になされてきた理由は、障害や疾患を悪いものとみなす価値観が定着しかねないという懸念だ。新指針で妊婦の不安に付け込む無認定施設の増加に歯止めをかける狙いは理解できるが、急激な診断機会の拡大は差別の拡大につながりかねない。
検査に対して、「命の選別だ」という批判もあります。遺伝情報や障害、病気で人を差別するべきではないという意味で、命の選別をするべきではないとの主張には全面的に賛成です。国家などが検査や中絶を強制することも許されません。
日本では出生前診断で障害や病気が判明した夫婦のうち、95%以上が人工妊娠中絶を選択しています。数値だけを見ると、命の選別につながっていると感じられるかもしれません。
障害もまた個性の1つだとの考え方もあります。しかし染色体の変異が見つかっても安心して育てられる社会ではないのも、人工妊娠中絶が選択される背景です。各家庭の事情により病気を持つ子を持つのが難しく、苦渋の決断として人工妊娠中絶を選択する人も多いでしょう。
出生前診断に対する反対意見
SNSでも出生前診断に対する反対意見は少なくありません。どのような意見なのか、実際の投稿からチェックしてみましょう。
出生前診断のツイートが人気なのをみて、
複雑な気持ちになった。私は、子どもが欲しいなら、
どんな障害や病気がある子でも、大切に産み育てるという決意で性交して、子どもをもつべきではと考えている派です。— 郡司真子Masako GUNJI (@Koiramako) April 23, 2022
そもそも出生前診断は、出産の検討を目的として行われているわけではありません。しかし検査の結果を受けて人工妊娠中絶を選ぶ人が多いのが現状です。
そのため出生前診断への反対意見も多く見られます。
出生前診断の倫理的問題は国によって異なる
出生前診断の倫理問題は、国によって大きく異なるものです。
例としてイギリスと日本について紹介します。どのような違いがあるのかを確認してみましょう。
イギリス
2022年現在、イギリスでは出生前診断を倫理的に問題視していません。イギリスはすべての妊婦に対し、国がスクリーニング検査を推奨。検査内容は母体血清マーカーと胎児超音波検査となっていて、国民保険サービスの対象です。
さらに保険適用外であるものの、9割以上の妊婦が出生前診断を受けています。人工妊娠中絶は公費負担となり、出産直前であっても人工妊娠中絶が可能です。
日本
2022年現在、日本では出生前診断を倫理的に問題視する声があります。ただし出産年齢が高齢化していることもあり、受検者は増加中です。
認定施設で出生前診断を受けるなら、年齢を始めとする特定の条件を満たす必要があります。また人工妊娠中絶ができる期間も、母体保護法で定められた範囲内です。
知っておくべき「セクシュアル・リプロダクティブ・ライツ」
出生前診断を考えるにあたって知っておくべきなのが「セクシュアル・リプロダクティブ・ライツ」です。セクシュアル・リプロダクティブ・ライツは、出生前診断を考える大きなヒントの1つになります。
どのようなものかを紹介しますので、内容を理解し、参考にしてください。
セクシュアル・リプロダクティブ・ライツとは
「セクシュアル・リプロダクティブ・ライツ Sexual and Reproductive Health and Rights」はSRHRと略されます。
日本語での意味は「性と生殖に関する健康と権利」です。
- セクシュアル・ヘルス……自分自身の性に満足し社会的にも認められていること
- セクシュアル・ライツ……性を自分で決められること
- リプロダクティブ・ヘルス……性や生殖への興味の有無に関わらず、心身が満たされて健康でいること
- リプロダクティブ ・ライツ……妊娠・出産・中絶など生殖についてすべて自分で決められること
性や生殖について人間の権利として自由に選べるというのが、SRHRの基本的な考えです。SRHRはマイナーな考え方ではなく、国連や国際機関などでも提唱されています。
人間の権利として性や生殖について選べるのなら、出生前診断も問題がないと考えられるでしょう。
出生前診断を受ける前に確認
出生前診断を受けるにあたっては、以下の3つを事前に確認しておく必要があります。
検査後に悩む要素を減らすためにも事前にチェックしておきましょう。
- 出生前診断後のサポート
- 出産後の社会的サポート
- カウンセラーの在籍
それぞれの特徴や、なぜ知っておくべきなのかについて解説します。
出生前診断後のサポート
医療機関により出生前診断後のサポートには違いがあります。もしNIPT(新型出生前診断)で陽性だった場合には、羊水検査をするか考える必要も出てくるでしょう。
医療機関によっては以下のようなサポートが受けられます。
- 検査前後の遺伝カウンセリング
- 羊水検査の費用負担
自分が出生前診断を受けようとしている医療機関にサポート体制があるのか、確認しておいてください。
出産後の社会的サポート
出産後の社会的サポートの確認も必要になります。出生前診断で陽性結果が出ると、出産や出産後について不安に感じるでしょう。
一般的なサポートとして考えられるのが以下の2つです。
- 特別児童扶養手当
- 療育手帳
自治体によりサポートの内容は違いますので、確認しておきましょう。
カウンセラーの在籍
出生前診断を受けるなら、カウンセラーの在籍も事前に確認しておくと良いでしょう。
2020年4月現在、日本国内の認定遺伝カウンセラーは316名です。年々増えているものの、全体的な人数はまだ多いとは言えない現状にあります。そのため、出生前診断をしているすべての医療機関に遺伝カウンセラーが在籍しているわけではありません。
出生前診断でカウンセリングを受けるなら、遺伝カウンセラーが在籍している医療機関か確認してみましょう。
NIPTによる遺伝カウンセリングの重要性
新型出生前診断(NIPT)を受けるなら、結果を受けた後についても検討する必要があります。そこで、重要になってくるのが遺伝カウンセリングです。
遺伝カウンセリングとは、検査を受けた人のサポートを行うものなので、これから検査を受ける人にとっては知っておくべき存在と言えるでしょう。身体面はもちろん、メンタル面までサポートしてくれます。
具体的にどのようなサポートを行ってくれるのかを以下で解説するので、出生前診断を検討されている人は、ぜひ参考にしてください。
遺伝カウンセリングとは
遺伝カウンセリングとは、検査を受けた人のサポートを目的として行われているものです。
医療機関での遺伝カウンセリングでは、以下のような説明が行われます。
- 遺伝についての悩み
- 検査内容
- 遺伝性疾患の内容
- 社会的な支援体制
- 出生前診断の倫理的な問題
検査そのものに不安を感じる人もいれば、出産後のサポートが気になる人もいるでしょう。そんな不安を解消するために行われているのが遺伝カウンセリングです。
遺伝カウンセリングの時間は、大抵が1枠30~60分で設定されています。医療機関によっては、パートナー同伴での遺伝カウンセリングが必要です。パートナーの同伴がなければ受けられない可能性もあるため、事前に確認しましょう。
遺伝カウンセリングでわかること
専門家による遺伝カウンセリングで分かるのは、最新の遺伝学情報です。さらに検査の意味・検査後の選択肢・社会的サポートも知ることができます。
出生前診断についての考えは人それぞれ違うものです。そのため周囲の人に相談しても、偏った答えが返ってくることも少なくありません。出生前診断の結果を受けて何を選択するかは、その人次第です。
遺伝カウンセリングを受けると多くの情報が得られるため、判断の助けになります。
遺伝カウンセリングを行う人
遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医または認定遺伝カウンセラーにより行われます。臨床遺伝専門医は、遺伝医療の検査・診断・治療に携わっている医師です。
認定遺伝カウンセラーは、養成専門課程を修了しており、臨床遺伝専門医と連携してサポートを行っています。どちらも遺伝医学に関するスペシャリストです。最新の専門知識を有しているため、遺伝カウンセリングでは的確なサポートが受けられます。
出生前診断の倫理的問題について一度考えてみましょう
妊娠や出産、障害や疾患などに対する考えは、人それぞれです。様々な考え方がありますが、必ずしも正解という意見はありません。
しかし、事前に考えを決めておかないと、いざ選択を決断したときに、精神面に負担を感じてしまう場合もあるでしょう。また、不安を感じる場合は、遺伝カウンセリングを行ってくれるクリニックを選んでください。
ぜひ今回の記事を参考に、出生前診断を検討してください。