はじめに
以前、「パートナーとして何ができる?【妊娠生活全体編】」についてお話しました。
こちらでは続編として、「NIPTにおける心配事 ~パートナーとしてできる声かけ~」についてお話します。
「NIPT」を含め「出生前検査」は、人によっては否定的な見方もあるデリケートな分野です。
身近な人にも相談しづらいため、パートナー様の言動がいつにも増して妊婦様の支えとなります。
なおNIPTにおけるご不安は、結果が「陽性」だったときに限りません。
① 受検前
② 結果待ちの期間
③ 結果が「陽性」だった場合
④ 結果が「陰性」だった場合
それぞれの場面で異なった不安をいだきます。
具体的にどういったサポートができるのか、一緒に考えていきましょう。
(具体的なポイントや、使えるお声かけの箇所を▶︎マークで示しています。)
妊婦様がいだく疑問・不安
① NIPT 受検前
《疑問・不安》
「NIPTを受けようかと思うんだけど」
「受けたほうがいいと思う?受けるのは良くないことなのかな?」
《真意》
「赤ちゃんの状態を知りたい」(=受けたい)けれど、「せっかく来てくれた赤ちゃんの生命を天秤にかけるようなことをしていいのだろうか」(=受けてはならない)、という相反する2つの気持ちに葛藤している状態です。
この段階では、まだほとんどの方が「あくまで自分は陰性の結果である」と考えておられます。
つまり、「陰性の結果を得て安心したい」というのが真意でしょう。
《答えの考え方》
▶︎まずはあなたの率直なお考えをお伝えしてよいと思います。
▶︎その上で妊婦様ご自身はどうされたいのか、お気持ちをご確認ください。
なおNIPTの受検自体、良くないことではありません。
大事な赤ちゃんのことを知りたいと思うのはごく自然なことです。
ただし、安易に受検されることはお勧めできません。
結果によっては、妊娠の継続か中断かという重い決断を迫られるためです。
どなたも安心を得たくて受検しますが、一定の割合(およそ1〜2%)で「陽性」の結果が出ることも理解しておく必要性があります。
そして万が一「陽性」の結果が出た場合には、確定診断(絨毛検査または羊水検査)を受ける必要性があります。(大切なことですので、後ほど詳しく解説いたします。)
▶︎これらを踏まえて、「受けるかどうか一緒に考えよう」という姿勢が妊婦様を安心させてくれることでしょう。
《NGワード》
「受けたいのなら受ければいいと思うよ」
「どうするかは任せる」
何気なく言ってしまいがちな言葉です。
優しい言葉にも思えますが、このように言われてしまうと、妊婦様はひとりで考え決断しなければなりません。
赤ちゃんのご両親はお二人です。
NIPTに限らずですが、お二人で考えていくことが大切です。
十分に話し合われた結果、最終的にお相手の意思を尊重されるのはよいと思います。
結果的には同じ発言でも、タイミング次第で意味が異なります。
《意見が割れたら?》
なお、NIPTにおいてお二人の意見が割れることはよくあります。
話し合いの過程で、考えが変わることもよくあることです。
考えは違えど、大切な赤ちゃんの健康を願っている点では同じです。
▶︎互いに「そういう考えもあるね」と認め合いながらお話できるよう願っています。
任意の検査ですので、NIPTを受ける・受けないどちらを選択されてもよいのです。
なお受検される場合には、どのような検査施設かも重要です。
1.プランや料金、概要等を納得いくまでわかりやすく説明してもらえる
2.相談できる「認定遺伝カウンセラー」や「臨床遺伝専門医」がいる
3.万が一陽性だった場合には、確定検査の費用負担をしてもらえる
これら3つを基準に、場所や費用等の条件が合う施設が見つかればベストだと思います。
② NIPT結果待ち
《疑問・不安》
「知りたいけれど怖い」
「結果が出るまで不安でたまらない」
《真意》
陽性の結果と向き合うことになるかもしれない。
お腹の中で大切に育ててきたのに、もしかしたら諦めないといけないかもしれない。
《NGワード》
「心配してもしょうがないよ」「結果を待つしかないよ」
「大丈夫だよ」「怖くないよ」
こちらも言ってしまいがちな言葉です。
ごもっともでありながら、妊婦様は寂しさを感じてしまうでしょう。
不安なときに言われる正論は、他人事のような、どこか突き放されたような気持ちになるからです。
「心配しても仕方がない」ことは、妊婦様もきっと理解しておられます。
それでも怖い、不安で仕方ない、と気持ちが追いつかない状況です。
私はこんなにも赤ちゃんのことで不安なのに、あなたはそう思わないの?と気持ちの温度差を感じてしまうかもしれません。
冒頭でもお伝えしました通り、NIPTは赤ちゃんの生命やご家族に関わるデリケートなものです。
NIPTの過程では、「励まし」や「正論」が逆効果になることもあるため注意が必要です。
《答えの考え方》
では、どういった言葉をかけたらよいのでしょうか。
具体例を挙げてみます。
▶︎「怖いよね」「僕も緊張する」
▶︎「どんな結果でも一緒に向き合おう」
このように共感や覚悟のお言葉が、ご不安な妊婦様の気持ちに寄り添ってくれます。
この不安は私ひとりで抱えているわけではないんだ、と思えるだけで心強くなれます。
なお胎児の染色体異常は、細胞分裂の過程で(つまり着床するまでの過程で)既に決定されています。
NIPTを受検することで、赤ちゃんの何かが変わるわけではありません。
未来に明らかになることを前もって知ることができる、ということです。
▶︎「心配だよね、だけど結果はすでに決まっている、どんな結果でも二人で受け止めよう」と寄り添いつつ、どっしり構えて待つことができたらベストだと思います。
《疑問・不安》
「もしNIPTの結果が陽性だったらどうしよう」
《答えの考え方》
こちらのご不安に対しては、寄り添いや共感のお言葉でご安心できるものではないと考えます。
なぜなら、「実際に陽性だった場合を想定して備えておくこと」が何より大切だからです。
具体策をご提案した記事がこちらです。
「NIPTで陽性だったらどうしようと不安です ~解釈の仕方・今だからできること~」
記事のなかには、印刷して使用できるカレンダーをご用意しています。
陽性だった場合、「いつまでにどう行動したらよいのか」が一目でわかるものがあればとお作りしたものです。
よろしければご活用ください。
③ NIPT「陽性」の結果を受けて
《疑問・不安》
「陽性だった。どうしたらいいかわからない。」
《真意》
NIPTの検査項目はいくつかあり、その中に陽性の項目があったということです。
(確定したわけではありません。母体年齢や陽性項目によっては、40%が偽陽性だったという報告もあります。)
頭が真っ白になるほどのショックで、放心状態になってしまいます。
何を考えどうしたらよいのか、赤ちゃんを諦めないといけないのか、私が何か悪いことをしてしまったせいなのか……。
次々と疑問や不安が湧き上がります。
《答えの考え方》
陽性だったらと想像することはあれど、実際に陽性の結果を受け取られる衝撃は計り知れません。
▶︎まずは「自分もショックだ」というお気持ちをストレートにお伝えください。
あなたが仰ることで、妊婦様も素直なお気持ちを出しやすくなります。
励ましよりも、寄り添う気持ちが最も大切です。
次に、
▶︎「まだ決まったわけではない」こと、「大事な赤ちゃんだからこそ確定検査(「絨毛検査」もしくは「羊水検査」)で確かめよう」という道筋を示してさしあげてください。
《確定検査は危険なのか?》
なお、確定検査(絨毛検査や羊水検査)は流産リスクがあるから受けたくない、とおっしゃる妊婦様も多くいらっしゃいます。
インターネットでは確定検査=危険という情報が溢れていますので、無理もありません。
結論からお伝えすると、確定検査が原因となって流産となる確率は0.1〜0.16%です。(1000回におよそ1回の頻度)
実際は、偽陽性※にも関わらず、赤ちゃんに染色体異常があると思い込んで妊娠中断をしてしまうリスクのほうが圧倒的に高いのです。
※赤ちゃんに染色体異常が無いにも関わらず陽性の結果が出てしまうこと。検査の限界として起こりうる。
前述の通りNIPTにおける偽陽性の確率は40%にのぼるものもあります。
(偽陽性40%とは?……検査項目や母体年齢が同じ「陽性」結果の100人において、そのうち60人は実際に染色体異常があり、40人は実際には染色体異常が無い、ということを意味します。)
NIPTの特長として、陰性的中率は99.9%と高いのですが、陽性的中率は決して高いとはいえません。
「陽性的中率」は検査項目や母体年齢によって異なるため、一概に何%とお伝えし難い側面があります。
これらを踏まえますと、特に妊娠中断の可能性がある方にとっての確定検査は大切です。
一方、妊娠の継続しか考えていないという方にとっては、確定検査ではっきりさせてもよいですし、妊婦検診のみ受診しながら経過観察されてもよいでしょう。
どうすることがベストなのか、ご判断に迷うときこそ専門家とのカウンセリングをご活用ください。
(平石クリニックでのNIPT受検者様には、認定遺伝カウンセラーとの無料電話相談をご用意しております。回数制限は設けておりませんので、継続的なサポートが可能です。ご予約制:0120-220-944)
赤ちゃんに染色体異常があった場合、残念ながら流産に至ることがほとんどです。
具体的には、妊娠12週目までに8割がそうなってしまうと報告されています。
染色体異常そのものも、それによっておこる流産も、防ぐ方法はありません。
「確定検査による流産の頻度」として知られる300回に1回とは、実は自然流産も含んだものです。
では、実際に確定検査によって流産となる頻度はというと、前述の通り1000回に1回ほど(0.1〜0.16%)なのです。
0ではない以上、絶対に大丈夫とはいえません。
しかし、だからといって「確定検査を受けずに妊娠を中断すること」はリスクが大きすぎます。
確定検査は任意の検査ですが、受検の是非を慎重にご判断いただきたいと思います。
そして、「羊水検査」よりも「絨毛検査」のほうが危険とも言われますが、こちらも懸念される必要はないと考えられます。
羊水検査を受検できる妊娠週数よりも、絨毛検査を受検できる週数のほうが自然流産の頻度が若干高いため、そのように広まったと考えられています。
なお近年では、羊水検査よりも絨毛検査のほうが安全という報告もあります。
いずれの検査にせよ、リスクが0%ではないので、実績のある施設での受検を推奨します。
「確定検査の流産リスクについてさらに詳しく知りたい」という方はこちらをご一読ください。
「NIPT陽性。羊水検査・絨毛検査、どちらを選べばよい?」
《 ポイント 》
●確定検査の流産リスクを懸念し、NIPTの陽性結果のみで妊娠中断されることはお勧めできません。
●「絨毛検査」「羊水検査」どちらの確定検査も、その時期の自然流産率とほぼ変わりありません。
●ただし、頻度は低くとも0ではない(0.1〜0.16%)ため、確定検査はリスクを伴う「侵襲的検査」という位置付けです。
●安心してご受検いただくためにも、経験豊富な医師や施設の元で受検されることが大切です。
④ NIPT「陰性」の検査結果を受けて
《疑問・不安》
「陰性だったけれど安心できない」
《真意》
・本当に陰性だったのか
・検査はきちんとおこなわれたのか
・他の検査も受けたほうがよいのか
・検査項目以外の部分も心配
・染色体異常以外の先天性疾患も心配
等、普段は心配性ではない方でも、赤ちゃんのこととなると不安が尽きない方は多いです。
お腹の赤ちゃんを大切に思っていらっしゃる証です。
《答えの考え方》
「陰性的中率は99.9%だから大丈夫」とわかってはいても、どこか半信半疑で心が落ち着かない状態です。
せっかく高額な費用でNIPTを受けたのに、と思われるパートナー様もいらっしゃるかもしれません。
お気持ちお察しいたしますが、妊娠出産に関しては特別心配になられるものです。
ご提案したいのが、やはり専門家とのカウンセリングです。
(平石クリニックの場合ですと、お二人が受け取られた結果と全く同じものを見ながら、無料電話相談にてご説明させていただいております。)
安心していただいて大丈夫だと専門家から聞くことで、初めて安心できるという方も多いです。
パートナー様ができることとして、
▶︎「カウンセリングを予約しようか?」
▶︎「一緒に電話しようか?」
といったお声かけがお勧めです。
何を聞いたらいいのかわからない、安心していいのかな、というようなざっくりとしたご相談でも大丈夫です。
なぜ大丈夫といえるのか、そのあたりも専門家が丁寧に説明することで、ご安心いただけるかと思います。
なお、
「検査結果が「陰性」と出たのに不安でたまりません。」
こちらもよろしければご参照ください。
あとがき
「パートナーとしてできること」前編・後編に分けてお届けしました。
こちらのページにたどり着かれている時点で、既にしっかりと妊婦様を支えておられるパートナー様なのだと感じます。
それでも、「女性(妊婦さん)って、この一言でこんなふうに思うんだな」というお気づきがありましたら嬉しく思います。
一例として書かせていただきましたが、本当のお気持ちはご本人に聞いてみないとわからないものです。
NIPTをひとつのきっかけとして、是非お二人でたくさんの会話をなさってください。
ご不安な妊婦様をにっこりさせてあげられるのは、おそらく専門家ではなくパートナー様です。
お二人が、そしてご家族みなさまが幸せであることをいつも願っております。
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