ご相談内容
NIPTで微小欠失(びしょうけっしつ)検査を受け、結果は陽性でした。
「マイクロアレイ」による確定検査が良いと聞いたのですが、「マイクロアレイ」とは何でしょうか?
ご相談をお受けして
マイクロアレイとは何のこと?
マイクロアレイとは、染色体の解析方法のひとつです。
一般的に、
⚫︎非確定検査である「NIPT」を受検し
⬇︎
⚫︎陽性だった場合にのみ、確定検査である「羊水検査」または「絨毛(じゅうもう)検査」による確定診断を受けます。
赤ちゃんの細胞を「絨毛」から採取する「絨毛検査」、「羊水」から採取する「羊水検査」。
そのどちらであっても、採取した細胞から赤ちゃんの染色体を解析する方法には「G分染法」や「FISH法」、「マイクロアレイ法」等があります。
一概にマイクロアレイ法がよいということではなく、NIPTにてどの番号の染色体が陽性だったかによって、最適な方法は異なります。
解析方法を知ることのメリットは?
基本的に「どの染色体解析方法にて確定検査をおこなうか」は、診察結果を元に医師と相談して決定します。
しかし、受検者様が事前に知っておくことにはメリットがあると考えます。
理由は以下の2点です。
①受検施設を決める上でのヒントとなる
どこの検査施設でも、全ての染色体解析をおこなえる設備や技術が整っているわけではありません。
あなたが陽性だった項目は、どの解析法での検査が望ましいのでしょうか。
それがわかると、初めから最適な解析方法がおこなえる受検施設を探すことができるでしょう。
②必要性のある検査を知り見落としを防ぐ
また、重篤な症状の出る染色体異常のなかには、特殊な解析でなければ見つけられないものもあります。
しかし、基本的な解析しかおこなわれず見落とされてしまっているケースも報告されています。
どのような方法にせよ確定検査さえしておけば安心、というわけではないのです。
以上の点から、「ご自身に必要な検査は何で、どのような解析方法でわかるものなのか」、ざっくりとでも把握されておくことは有意義だと考えます。
それは同時に、妊婦様ご自身の安心感にも繋がります。
NIPTの陽性項目に応じた最適な検査・解析方法
NIPTの陽性項目ごとに適した解析方法は以下の通りです。
※なお、各解析方法については後半で解説いたします。
A《21,18,13トリソミー※が陽性だった場合》
……「Gバンド法」(+「FISH法」)による絨毛検査 or 羊水検査
検査から結果までの期間は、「Gバンド法」で約3週間、「FISH法」では約1週間です。
「FISH法」は比較的結果が早く出るメリットがあります。
しかし精度はさほど高くなく、あくまで可能性を判定するための迅速検査です。
そのため、「Gバンド法」と併用することで、早さと正確性を補い合うことができます。
(※数字は染色体の番号を表します。
「トリソミー」とは、通常2本1組の染色体が3本になってしまう数の異常のことです。)
B《6,7,11,14,15,20トリソミーまたはそのいずれかの番号の微小欠失があった場合》
……「Gバンド法」(+ 「SNPマイクロアレイ」)による絨毛検査 or 羊水検査
トリソミー(数の変化)はGバンド法ではっきりと確認できます。
しかしこれらの番号における染色体の変化は、「微小欠失(形の変化)」や 「片親性(カタオヤセイ)ダイソミー※」である可能性も疑われます。
「微小欠失」や「片親性ダイソミー」はSNPマイクロアレイでなければ見つけられません。
※「片親性ダイソミー」……染色体は各番号ごとに2本ずつあります。通常は、両親からもらう1本ずつで構成されるのですが、片方の親から2本もらう状態を「片親性ダイソミー」といいます。染色体の数は正常ですが疾患を引き起こします。
C《その他の染色体トリソミーが陽性だった場合》
……「Gバンド法」(+ 「SNPマイクロアレイ」)による絨毛検査 or 羊水検査
迅速検査としてFISH法も併用されることがあります。
前述(B)同様、片親性ダイソミーの可能性が疑われる場合、SNPマイクロアレイによる検査をおこないます。
D《性染色体トリソミーが陽性だった場合》
……「Gバンド法」(+「FISH法」)による絨毛検査 or 羊水検査
迅速検査としてFISH法も併用されることがあります。
E《微小欠失症候群が陽性だった場合》
……「SNPマイクロアレイ」(+「FISH法」)による絨毛検査 or 羊水検査
例①:「22q11.2症候群(ディ・ジョージ症候群)」
21トリソミーに次いで発症率の高い染色体異常に「22q11.2症候群(ディ・ジョージ症候群)」という指定難病があります。
「22q11.2症候群」は22番染色体の微小欠失によって起こります。
微小な欠失でも、そこにある30〜40個の遺伝情報が失われてしまうため、様々な症状が引き起こされます。
「22q11.2症候群」が疑われる場合には、特定箇所を狙って検査する「FISH法」が用いられます。
しかし、異常や変異が遺伝子レベルの欠失であると検出できず、5%未満は陽性でも陰性と出ることがあります。
その場合には「マイクロアレイ法」にて改めて検査されるケースもあります。
例②:「プラダーウィリー症候群」
また、微小欠失症候群のひとつに「プラダーウィリー症候群」があります。
「プラダーウィリー症候群」の原因は70%が微小欠失ですが、20%は片親性ダイソミーによるものです。
したがって、前述(BやC)同様、「SNPマイクロアレイ」による検査が有効です。
なお、複数の検査を併用する場合、絨毛や羊水を再び採取する必要はありません。
採取した試料を培養(数を増やすこと)したもので解析します。
ただし、各解析方法それぞれに料金が発生しますので、それだけ料金がかさむ点がネックです。
NIPTは、確定検査費用を負担してもらえるところで受検されるのが安心です。
上記でご案内した解析方法について、どのようなものか詳しくご説明いたします。
【Gバンド法(G分染法)でわかること】
「Gバンド法」は絨毛検査や羊水検査にて採取した胎児の細胞を培養し、全ての染色体の数と形を調べる染色体解析方法。
昔からのアナログな方法で、一般的に用いられる解析方法。
トリソミーは数の変化のため、Gバンド法で一目瞭然。
染色体の変化である〝逆位〟〝転座〟〝大きい欠失〟〝重複〟等、その多くを調べることができる。
しかし検出感度がさほど高くない。
したがって正常染色体の細胞が混在している〝モザイク〟や〝微細な変化〟〝遺伝子レベルの変化〟は検出できない。
また、絨毛検査や羊水検査で〝Gバンド正常〟と出ても、検査の限界ゆえに生まれてから微細な染色体異常がわかることもある。
結果には2〜3週間かかることが多い。
【FISH法でわかること】
「FISH法」は21,18,13番染色体、性染色体(X染色体、Y染色体)の5種類の染色体をピンポイントで検査することで、トリソミーや微小欠失等を見つける。
「Gバンド法」等ではっきりしなかった細かな部位に狙いを定めて検出することができる。
ただし、染色体レベルよりも細かい遺伝子レベルの異常や変異は検出できない。
例えば欠失は見つけやすいが重複は見つけにくい。(重複は欠失よりも症状が軽いとされている。)
結果は3日程度で出ることが多い。
「FISH法」はスクリーニング(診断的な位置付けではなくリスクの高さをみるもの)として、迅速に情報を伝えるために用いられる。
そのため単体ではなく、「Gバンド法」や「マイクロアレイ法」の予備的な位置付けで、それらと組み合わせて実施されることが多い。
また、微小欠失の中で最も頻度の高い「22q11.2症候群※」は「FISH法」にて検出可能。
※22番染色体長腕部分の欠失。「ディジョージ症候群」とも呼ばれる。前述(E 微小欠失症候群が陽性だった場合)参照
しかし、そのうち5%未満は、陰性と出ることが報告されている。
「FISH法」の精度を疑う場合には、「マイクロアレイ法」にて改めて確認される。
【マイクロアレイ法でわかること】
「マイクロアレイ法」は「Gバンド法」の100倍ほど細かく染色体の変化をみることができるため、微小欠失や片親性ダイソミーを調べるのに適した染色体解析方法。
「アレイCGH法(比較ゲノムハイブリダイゼーション)」や「SNP(スニップ)マイクロアレイ検査」等がある。
なかでも「SNPマイクロアレイ検査」は、顕微鏡では観察できないレベルのかなり細かいDNAの構造変化まで明らかにできる。
しかし、〝均衡型相互転座〟や〝逆位〟を検出する事はできない。
転座や逆位にともない〝微細な欠失〟や〝重複〟が存在する場合には検出できることもある。
取り扱いのある受検施設の見つけ方
確定検査は、一般的には現在通われているクリニックにておこないます。
もしくは、クリニックからのご紹介や、ご自身で条件に合うクリニックを探していただく方法もあります。
クリニックの見つけ方ですが、一覧化されているホームページや資料、有益な検索システムが現時点で存在しません。
そのため、Googleやyahooなどの検索エンジンで〝羊水検査 マイクロアレイ 地名〟等というように検索していただくのが最短かと思います。
なお、無認定施設でのNIPTや、NIPT自体に否定的なお考えの医師の場合、受け入れてもらえないケースもあるようです。
確定検査の受検理由を「NIPTで陽性だった為」と必ずしもそのままをお伝えする必要はありません。
「年齢リスクが心配な為」という理由で十分でしょう。
赤ちゃんのことを知りたいと思うのは親としてのごく自然な感情です。
妊婦様が、むやみに傷つけられることのないよう願っています。
なお確定検査の結果次第では、妊娠の継続か中断かという非常に重い選択を迫られます。
陽性だった項目によって重症度は変わるため、将来的に自立できるかどうかも異なります。
どの項目で陽性で、それは自立できる可能性がどの程度で、どのような支援があるのか等……。
タイムリミット※があるなか、それらをお一人ないしはお二人で考えるには、無理があるでしょう。
(※妊娠中断の期限は法律で21週6日までと定められています。)
つまり、重要な選択をするうえで正しい情報は必要不可欠です。
「臨床遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」に相談できる環境下での受検を強く推奨します。
確定検査の費用はどれくらい?
受検の費用は基本検査のみで済む場合、一般的に10〜20万円ほどです。
検査施設により幅があります。
また、陽性項目によってはオプション検査が必要な場合もあり、〜50万円ほどです。
確定検査にかかる費用はNIPTと同じく保険適用外ですので、全額自己負担となります。
(平石クリニックまたは各提携院にてNIPTをご受検された妊婦様には、確定検査の費用を全額負担しております。2021年11月現在。)
ご相談をふりかえり
NIPTにて陽性だった場合のポイントをおまとめします。
・NIPTにて陽性項目があった場合には、偽陽性の可能性もあるため確定診断が必要
・「絨毛検査」「羊水検査」どちらの確定診断においても、染色体解析方法には様々な種類がある
・NIPTの陽性項目に応じた解析方法で検査をする必要性がある(本文ご参照)
・わずかにリスクもあるため、実績ある専門機関にて受検されることが大切
・確定診断にて赤ちゃんの染色体異常が確定された場合、21週6日の期限までに妊娠の継続か中断かを判断しなければならない
・正しい情報を得たうえで選択できるよう、「臨床遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」に相談できる施設にて受検されることが重要
妊婦様とパートナー様が、正しい情報のもと納得いく自己決定ができるよう願っています。
お二人のお考えを支持し、継続したフォローをしていけたらと考えます。
ご参照:
陽性が確定。どう結論を出せばよいのか?
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