出生前診断には大きく分けて2種類があります。非確定的検査と確定的検査です。このうちの非確定的のほうには母体へのリスクがありませんが、確定的検査にはわずかながらにリスクがあります。確定的のほうには羊水検査と絨毛検査があり、羊水のほうでは0.3%の確率で、絨毛のほうでは1%の確率で、破水や流産の危険性があります。
確定的検査には母体へのリスクがある
出生前診断には、母体へのリスクがない非確定的検査と、母体へのリスクがある確定的検査があります。前者には、すべての妊婦に対しておこなわれる超音波診断も含まれます。超音波診断は妊婦検診にも組み込まれているくらいですから、安全です。他に妊婦からの採血で調べる方法もありますが、これも特に安全性に問題があることではありません。採血は、通常の一般的な健康診断でもおこなっていることです。 精度が非常に高い新型出生前診断も、2013年から実施されるようになっています。この方法も、採血によっておこなわれる非確定的検査であり、安全性に問題はありませんが、その際の陽性の判定結果を確定させるためには、母体にリスクのある検査を受ける必要があります。新型出生前診断で陽性や判定保留という結果が出ても、その後の検査の結果、陰性になる場合もあります。なお、新型出生前診断は誰でも受けられるものではなく、年齢などの一定の条件を満たした場合に受検できます。 確定的診断には羊水を採取する方法と絨毛を採取する方法とがあり、確率は低いものの、いずれの場合も母体へのリスクがあります。
羊水検査で、破水や子宮内感染も
医学の進歩によって、確定的検査で破水や感染症感染および流産が起きる確率は下がりつつありますが、ゼロではありません。医療機関による違いもあります。 確定的検査のひとつである羊水検査では、子宮の中に針を刺し、羊膜に穴を開けて羊水を採取します。針を刺す刺激で子宮が収縮する場合があり、それが流産を誘発する原因になることもあります。針を刺したときに開いた穴から破水が起こり、感染症が引き起こされて流産につながることもあります。医療機関によっては、破水や感染による合併症予防のために、検査の際に念のため入院するよう推奨しているところもあるようです。 羊水検査後は、感染予防と子宮収縮抑制の内服薬が数日分、処方されます。ただ破水は急激に大量に起こることはむしろ少なく、少量ずつ出続けるというケースが多いため、異常を感じた場合にすぐ対処できるような状況にしておくことが望まれます。破水しなくても、針を刺したところから子宮の中に細菌が入り、子宮内感染になる可能性もあります。その際には妊婦が発熱することもあります。 羊水検査にこうした危険性があることは、医療機関で事前に説明されます。
母体の状態による羊水検査リスクの差
羊水検査後に異常が起きる確率は、母体の状態によって違ってきます。子宮筋腫がある場合は、針を刺す場所が限定され、特にへそ側に子宮筋腫があると針を刺すのが困難です。子宮を収縮させてしまう危険性も高くなる可能性があります。以前に子宮筋腫や卵巣嚢腫などの手術をしたことがある妊婦の場合、子宮付近で臓器癒着となっている場合があります。臓器癒着で臓器の位置がずれ、意外な場所に臓器が位置していると、ケースによっては針を刺せる場所がほとんどありません。 子宮内膜症や子宮腺筋症およびクラミジア感染症にかかっている場合は、羊水検査で針を刺すことで、腹腔内の炎症が悪化する可能性もあります。 該当する場合は、羊水検査の前に医療機関からこうした危険性についての説明があります。先天性の染色体異常がある胎児は、妊娠15週から18週に自然流産となることが多いです。そのこととは関係なく、羊水検査は妊娠15週から18週におこなうケースが多いですが、検査を受けるかどうかは、妊娠22週目に入る前に決めなければなりません。そのため、妊婦検診には必ず通って、母体の状態を常に把握しておくことが望まれます。
羊水採取に伴うリスクはゼロにならない
子宮に針を刺して羊水を採取するということは、妊娠から出産までの過程で本来はおこなわれないことです。健康診断を始めとする検査のための血液採取も、数十年前まではしていなかったことであり、問題はないわけですが、羊水採取にはそれなりの危険性が伴います。その確率は、医療機関によっても異なり、年々下がってきてはいますが、依然としてゼロにはできない状況です。羊水検査がおこなわれやすい時期が、染色体異常の胎児が自然流産しやすい時期と一致しているため、破水や子宮内感染がはっきりと確認できなかった場合に流産したとき、それが羊水検査の影響であるかどうかは見分けがつかない状況のようです。ただ、羊水検査後に破水や子宮内感染が引き起こされることは、件数は少ないながらも続いており、そうしたことを踏まえて検査に臨む必要があります。 破水や子宮内感染となった場合は、流産を避けるために長期入院となることが少なくありません。入院中も絶対安静となることが多く、母体の筋力低下や骨密度低下は避けられなくなります。子宮内感染となった場合は発熱することもあり、内服薬を飲み続けることで肝臓も影響を受けます。
妊娠早期におこなえる絨毛検査に伴うリスク
もうひとつの確定的検査である絨毛検査は、妊娠初期の10週目から受けられます。この検査では、妊娠早期の胎盤の一部であり、胎盤のもととなる絨毛組織を採取し、その細胞を調べます。採取はお腹に針を刺すか、もしくは膣から管を入れておこないます。どちらの方法にするかは、胎盤の位置によって決められます。 流産の危険性は羊水を調べる方法よりも高いとされていますが、医療機関によっても異なり、最近ではそれほど大きな差はなくなりつつあるようです。絨毛検査では、主に遺伝子や染色体の異常で引き起こされる神経管奇形やダウン症候群および18トリソミーなどの疾患を調べることが可能です。 判定精度は99.1%ですが、ダウン症に関しては99.9%となります。新型出生前診断で陽性や判定保留となった場合は、絨毛検査で確定診断を得る場合もあります。 多くの医療機関では受検条件を設けており、その条件に該当する妊婦のみ、この方法を選択できます。流産や母体への危険性もある方法であることもあり、多くの医療機関において、誰でも受けられる方法とはしていないようです。
絨毛検査で腹膜炎が起こることも
絨毛検査は、羊水検査よりも危険性が高いためか、単に妊婦が高齢という理由だけでは受けられないという医療機関もあります。絨毛の採取には熟練した技術が必要であり、この検査ができる医療機関は限られています。この検査は羊水検査よりも採取できる胎児の細胞の量が多く、遺伝子検査をしやすい面はあります。 ただわずかながらではありますが、破水や流産および妊婦の出血などが起こる可能性があります。羊水を調べるよりも流産する確率が高くなっているのは、妊娠早期ほど流産しやすいということも影響していると見られます。 この検査では、初めに超音波で胎児の発育や明らかな異常の有無を調べ、胎盤の位置を確認します。医療機関によっては超音波の画像を見ながら絨毛を採取しますが、お腹から針を刺す方法の場合は、針が腸に刺さり、腹膜炎などの重症感染症を引き起こす可能性があります。経腟法の場合は、絨毛を採取する器具が子宮筋層を突き破って腹腔内に達し、同じく腹膜炎などの重症感染症を引き起こす可能性があります。 確定的検査にはこうした危険が伴うことを、あらかじめ十分知っておくことが望まれます。