新型出生前診断(NIPT)と母体血清マーカー検査でわかることの違い

コラム

新型出生前診断(NIPT)が世間によく知られるようになり、保険適応ではありませんが希望する妊婦さんは胎児の先天的な異常について知ることが出来るようになっています。かつて最もメジャーだった母体血清マーカー検査という検査と比べてどのような点が魅力なのでしょうか。検査で分かることを中心に、それぞれの検査のポイントを解説します。

母体血清マーカー検査が広く行われていた理由

母体血清マーカー検査は、妊婦さんから血液を採ることで、その血中にあるタンパク質などを解析する検査法です。赤ちゃんがお腹の中にいると、赤ちゃんだけが作り出せるタンパク質などがへその緒を通じて妊婦さんの血の中に混ざるのです。このタンパク質の値が基準値と比べてどうであるかを検討して、ダウン症などの赤ちゃんに起きている異常の可能性を示すことが出来るのです。 母体血清マーカー検査の魅力は血液を採るだけで簡単に実施できるという点です。しかし、赤ちゃんの成長や発達度合いだけではなく、お母さんの体調などによってもタンパク質の血中濃度は変わってしまうため、異常値であっても体調が悪いだけという場合もあるので、異常を確定できる検査ではないことを知っておかなくてはなりませんでした。どうしても確定させたければ赤ちゃんのいる子宮に針を刺す羊水検査を行わなくてはなりませんが、侵襲も高く母児ともに負担をかけることから実施までのハードルは高いのです。これらの問題を解決できたのが、新型出生前診断(NIPT)でした。

新型出生前診断(NIPT)の仕組み

新型出生前診断(NIPT)も基本的には妊婦さんの血液を採ることで検査を行うものです。母体血清マーカー検査と同様に、実施する上での母児への負担は非常に少なくて済むというメリットがあります。母体から血液を採取するだけでは胎児にダメージが加わることはありませんし、採取する血液も少量なので貧血になったりすることは無いでしょう。 新型出生前診断(NIPT)で見ているのは赤ちゃんのDNAです。実は、母体の血液の中にも赤ちゃんのDNAが含まれていることが近年の研究で分かったため、このような検査が実施されるようになりました。母体の血液に約10%含まれる赤ちゃんのDNAを採取し解析することによって、羊水検査のような赤ちゃんの異常を直接表現するデータが取れるようになったのです。赤ちゃんのDNA情報は母体の健康状態によって変化するものではありませんので、得られる情報は羊水検査のような確定的な検査結果であると言えます。簡便な検査手順で羊水検査のような詳細な情報が得られるのが新型出生前診断(NIPT)の魅力です。

ダウン症の検査ではDNAの検査が大切

ダウン症というメジャーな赤ちゃんの異常を検査することが新型出生前診断(NIPT)の出発点でした。ダウン症は赤ちゃんの染色体が本来2本ワンセットであるべきものが、3本ワンセットとなっていることで起きてしまいます。多くは21番染色体ですが、18番や13番など様々な染色体が3本ワンセットとなることでダウン症になってしまいます。 この遺伝子の変化によって、赤ちゃんが上手く成長できないなどの理由から、産生するタンパク質の量にも差が生じるとされていたのが母体血清マーカー検査の根拠でした。しかし、涙や汗が人によって分泌量が異なるように、タンパク質やホルモンの産生にも個人差があります。母体血清マーカー検査ではこの個人差と実際のダウン症などの胎児異常を検査上区別できないため、ダウン症の可能性がある、と診断するに留まっていたのです。つまり、検査をするために最終的に必要なのは赤ちゃんのDNAを調べることであり、複数の段階を踏まずにいきなり遺伝子検査の結果を得られる新型出生前診断(NIPT)が優秀なのはこういった点です。

どんな妊婦さんが新型出生前診断(NIPT)を受けられるのか

そんな新型出生前診断(NIPT)ですが、どんな妊婦さんも検査の対象になるわけではありません。日本産婦人科学会によれば、検査の対象となる妊婦さんは胎児を超音波検査で確認した時に異常所見が認められた方、あるいは高齢の妊婦さんです。 実は、赤ちゃんがダウン症であると疑われる超音波画像検査の所見があります。首の後ろの皮下組織が厚くなっているなどの目で見て測定できる基準が設けられています。しかし、確認する断面や赤ちゃんの成長度合い、はたまた画像の荒さゆえに厚く見えてしまっている可能性ということもあり、血液からデータを採取する検査方法を併用して出生前診断をするのです。 また、高齢であれば若年の妊婦さんに比べてダウン症の赤ちゃんを妊娠しやすいという統計があるため、念のために高齢の妊婦さんも検査対象に含められています。高齢だから、必ずダウン症の赤ちゃんを妊娠するということは決してないのですが、前述の画像診断所見も併せて考えた時に異常を疑われた場合に検査を実施することになります。

検査の費用はどの程度なのでしょうか

新型出生前診断(NIPT)の費用は全額自己負担のため、20万円程度の出費を覚悟しなくてはなりません。しかし、従来の検査に比べて精度が高く、侵襲性の低い検査を行えるということを考えてみれば、金銭的な余裕があれば検査の受診を検討しても良いのではないでしょうか。 注意しなくてはならないのが、新型出生前診断(NIPT)は疾病を治療する医療行為ではなく、ひとつの検査に留まるために、国民健康保険はおろか医療費控除の対象にもならないのです。残念ながら、医療費がかかり過ぎてしまったときの頼みの綱である高額医療制度の補償範囲外となっています。日本の医療制度の枠組みの中では、ある程度の余裕が無ければ挑戦できない検査であると言えます。従来の母体血清マーカー検査であれば3万円程度と比較的安価に行えることも知っておくべきです。 我が子の状態について知り、生まれた後のことを覚悟したり、心の準備を整えるなどの期間を設けることが出来るという点で種々の出生前診断は有用です。産婦人科の先生に勧められたら家族で実施を考えてみても良いでしょう。

検査が出来る施設はどんなところなのか

実は、新型出生前診断(NIPT)の実施については一度、あまりにも多くの施設が実施の準備が不十分なまま検査を行っていたため日本産婦人科学会によって注意がされたこともあり、現在行われている施設はかなり限定されています。その要件としては妊婦さんに説明をする産婦人科医、赤ちゃんの治療を行う小児科医が常勤していること、遺伝の専門家が勤務していて、遺伝カウンセリングを受けられることです。つまり、そこで赤ちゃんを産んでもその後の治療までしっかり面倒を見てくれ、バックアップしてくれる体制が整っている病院でしか実施されていないのです。 普段通っている病院がこの要件に達していない妊婦さんは、検査のためだけとはいえ総合病院など妊婦さんと赤ちゃん、そしてお産そのものを強力にバックアップしてくれる病院や施設へと紹介されなくてはなりません。何か赤ちゃんの異常が指摘されたら、新型出生前診断(NIPT)を受けたいという意思をかかりつけの産婦人科医に伝えてみることから、検査の実施は始まるのかもしれません。

新型出生前診断(NIPT)は近年普及した新しい、そして母児共に優しい検査方法です。しかし、未だ制度によるバックアップが弱いこともあり、またセンシティブな問題を扱うことから実施できる施設は限られています。それでも、生まれてくる新しい家族について知る数少ない方法ですので興味があれば検査を希望してみるのが良いでしょう。