妊娠糖尿病はどんな症状が出る?発症する原因と防止策について解説

コラム

ちょっと甘いものを食べただけ。昨日食べ過ぎただけ。妊婦健診の尿検査で糖の指摘を受けたとき、自分の食生活のせいだと心の中で言い訳をしたことはありませんか?でも、糖が出たのは食生活ばかりではないかもしれません。実は妊娠中は普段よりも糖尿病になりやすい傾向があるのです。今回は、意外と知らない妊娠糖尿病についてご説明します。

妊娠糖尿病とはどんな症状?

妊娠糖尿病とは、妊娠をきっかけに糖尿病予備軍のような状態になることを言います。2010年に妊娠糖尿病の診断基準が変更されたこともあり、約12%(※1)と多くの妊婦さんに当てはまる症状です。

妊娠糖尿病と糖尿病の違いのひとつは診断基準にあります。糖尿病診断に用いられる基準の空腹時血糖をみてみると、成人の糖尿病では126mg/dl以上とされているところ、妊娠糖尿病では92mg/dl以上が目安です。通常は100mg/dlを超えると要注意とされるものですが、これは妊娠前から糖尿病の方や妊娠後明らかな糖尿病となった方は妊娠糖尿病から除外していることと、糖尿病では血糖値が徐々に上がってくることから、上昇傾向のある妊婦さんを早期に発見し母体とあかちゃんの健康を守るという理由もあります。

早い段階での診断を可能とするために、妊婦健診で定期的に妊娠糖尿病の傾向があるかを確認します。健診での尿検査で尿糖がでていないか、血液検査で血糖値が上がっていないかを確認するのです。尿検査は検診の度、血糖値の検査は初期、中期、後期に行われ、随時血糖という普段の食事をした状態での血糖値が高いと判断された場合は再検査に移行します。これをスクリーニング検査といいます。

再検査では、ブドウ糖負荷検査を行います。ブドウ糖負荷検査とは、検査用の炭酸ジュースを飲んだ後、一時間後と二時間後の血糖値を測るものです。この時に、一時間後の血糖値が180mg/dl以上、二時間後に153mg/dl以上の値となった場合に妊娠糖尿病と診断されます。また、この数値に限らず日ごろの尿検査で尿糖が出る頻度が高い場合などには、総合的に判断されることもあるので医師の判断に従ってください。

早めの診断の必要性のもうひとつの理由に、自覚症状があまりなく糖尿病が進行するかもしれないことが挙げられます。糖尿病の症状といえばのどの渇きや頻尿、皮膚の掻痒感などがありますが、妊娠糖尿病の場合はそこまで血糖値が高くないために自覚症状がないことがほとんどです。しかし放置していると、あかちゃんが大きく育ちすぎる巨大児となる可能性や心肥大となるリスクがあり、出産後にもあかちゃんの低血糖や呼吸障害、最悪の場合は胎児の死亡という悲しい結果となる場合もあります。

妊娠糖尿病になると母体にも影響があります。あかちゃんに悪影響があり早産のリスクを高める妊娠高血圧症や羊水過多、抵抗力の低下による感染症へのリスクが上がるなど、妊娠継続によいことがひとつもありません。妊娠糖尿病は本格的な糖尿病に移行することは少なく、出産後に自然と血糖値が下がることが一般的ですが、将来的な糖尿病のリスクは上がるとも言われています。

妊娠糖尿病になる原因

妊娠糖尿病の主な原因は、妊娠中に分泌されるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなっていることにあります。インスリンが効きにくいと、摂取した糖分の分解がうまくいきません。糖分はそのままではサイズが大きいため、インスリンの力を借りないと体内に吸収されにくい成分です。分解されない糖は血中に留まって溜まり、最終的には尿と一緒に排出されます。これが糖尿病で尿や血液に糖が出る仕組みです。

妊娠するとホルモンの作用でインスリン不足状態となり、普段通りの食事を摂っていても尿糖が出やすく、血糖が上がりやすくなります。しかし、体にはなんとかバランスを保とうとする性質があり、ホルモンによる影響を中和するためにインスリンをいつもよりも多く作り出して糖分の分解が滞らないように働きます。このとき遺伝等の影響でもともとインスリンの分泌が少ない場合や、普段からインスリンを多く必要とする生活をしていた場合には、ホルモンによる影響をカバーしきれず妊娠糖尿病となるのです。将来的に糖尿病のリスクがある方の場合は妊娠中のホルモンの影響を受けやすいと言えます。

妊娠糖尿病となりやすい要因はいくつかありますが、まず両親や祖父母に糖尿病の方がいる、BMIが高いといった、糖尿病リスクがもともとある場合は要注意です。痩せている方でも糖尿病患者が家族にいるとハイリスクとされます。妊娠初期の問診などで家族歴を確認する場面がありますね。また、加齢によってもリスクが上がります。具体的には35歳以上の妊娠の場合が挙げられます。巨大時の出産歴や妊娠高血圧の既往がある場合も、妊娠糖尿病の疑いがあるため注意が必要です。ほかに、習慣流早産がある、羊水過多なども妊娠糖尿病が関与している可能性があるので注意しましょう。

肥満に当てはまったといっても過度なダイエットは禁物です。特に極端な糖質制限によるダイエットを行うと、体内の脂肪を燃焼してエネルギーとするときに生成されるケトン体が体内に増え過ぎる可能性があります。ケトン体は酸性のため、増えすぎると血液が酸性になりさまざまな症状を引き起こします。母体にもおなかのあかちゃんにも悪影響ですので、無理な食事制限はやめましょう。

妊娠糖尿病を防ぐには

妊娠中はホルモンが影響し糖分が分解しにくい状態です。そのため、血糖が上がりにくい食事の工夫をすることで血糖の上昇を抑えることができます。

血糖が上がりにくい食事とは、キノコ、野菜、豆、海藻などの低GIと呼ばれる食品を多く取り入れること、野菜を先に食べる習慣をつけること、早食いドカ食いを避けることなどが挙げられます。牛肉や生クリームなどは脂質が多く摂り過ぎると血糖の上昇を助長しますので、意識して摂取しましょう。

また、血糖が高くなるのは糖がたくさん体内に入って分解が追い付かないときです。しかし、妊娠中は普段よりもエネルギーを必要とするため、糖分を控えることで一日の総エネルギー量を大幅に減らすことはおすすめできません。しかし、言い換えれば一日に必要な栄養やカロリーを摂ることができればよいので、一回の食事量を減らし、回数を増やすこともひとつの方法です。食事と食事の合間におやつを加えて5~6回に分けると、生活リズムを崩さずに実行できます。

また、運動不足や睡眠不足も代謝に影響します。妊娠中では激しい運動はおすすめできませんが、ストレッチやウォーキングなどの軽い運動はよいとされているため、自宅でできる運動を取り入れるのもおすすめです。ついついしてしまいがちな夜更かしも控えましょう。妊娠中はおなかが圧迫されよく眠れないこともありますが、心地よい寝姿勢を保つためにクッションを使用するなど工夫してみるのもよいかもしれません。夜にぐっすり眠るための基本は朝起きることです。朝日を浴びて目覚めると、体内時計が働き夜眠りやすくなります。

まとめ

妊娠糖尿病は妊娠しているとだれにでもなる可能性があり、症状がないためいつの間にか血糖が高くなっていることもあり得る疾病です。しかし、母体の血中の糖が多いということは、あかちゃんに糖分の多い食事が運ばれるのと同じことなので、未然に防ぎたい疾患でもあります。母体とおなかのあかちゃんの健やかな成長のためにも、食事内容などを一度見直してみましょう。